悪夢の果 3
- カテゴリ:自作小説
- 2017/12/11 15:33:28
それから、半年後。
「ほら!伸!お父さんよ!」
母が出産した、その子供の顔を見て。
「・・・!」
もう、耐え切れなくなった。
「ね!正さんにそっくりでしょう!」
そう、その赤ん坊の顔は、あくまで父に似ていて。
「あ、正さん本人ですものねぇ!そっくりって言うのは違うわね!」
”父親似”の僕に、似ていると言う訳では・・・
「あぁ、正さん!正さん!」
いや。
駄目だ。
頭で否定しても。
その、”幼少期の僕に瓜二つな顔”に・・・
魂が、”血”を否定出来ない。
「う・・・」
「あら。どうしたの?伸。」
「うわあぁぁ!」
「あらあら。何処に行くのよ。折角、家族が久しぶりに揃ったのに。ねぇ、正さん。」
もう、僕は・・・
母と。
母の生んだ子とは。
共に顔を合わせて暮らすなんて事は出来ない、と思った。
「・・・お世話になりました、叔父さん。」
一か月後。
駅のホーム。
「・・・いや。」
見送りは、叔父一人。
母は・・・
”子育て”に夢中らしく、暫く自分の家で僕を預かると言う叔父からの電話以降、僕の行方を気にもしていないらしい。
叔父の計らいで、九州の遠縁の老夫婦の元に僕が下宿する事になったと言う電話にも、そう、の一言だけだったと聞いた。
「生活費や学費の事は気にしなくていい。今まで通り、私が援助しよう。」
「・・・助かります。」
そう。
父がどの仕事も長続きせず、職場を転々としていた僕の家の家計は、今までも叔父に支えられていたと言っていい。
「本当に、何から何まで・・・」
「水臭い事を言うもんじゃない。血縁じゃないか。」
血縁。
その言葉は。
今の僕には。
「・・・すまん。」
「え?」
「手段は選ぶべきだった。今更だが、そう思うよ。」
「叔父さん・・・」
そう。
この叔父に、責を問うつもりが無い訳では無い。
が。
そこに悪意があって行われた事ではない。
何故か今の僕には、それが自然と飲み込めた。
「・・・叔父さんが。」
「ん?」
「叔父さんが、僕の本当の、父さんだったら・・・」
実の父より、父親のように思っていた、叔父。
幼い頃から、何度そう考えた事か。
「私もね。」
乗り込んだ列車のドアが閉まる寸前。
「何度も、何度も。そう思っていたよ。」
それは。
僕への親愛の情か。
母への恋心なのか。
問えないままに、列車がホームから離れた。
つづく