悪夢の果 4
- カテゴリ:自作小説
- 2017/12/11 15:34:17
それから、五年。
僕は、下宿からほど近い大学の医学部に進学した。
下宿先の老夫婦は、僕に本当に良くしてくれている。
子供が出来なかったのだと言うその老夫婦は、時折、僕を養子に迎えたい旨を零すようになった。
そんな矢先。
”伸君。落ち着いて聞いてくれ。”
叔父からの、電話。
”葵さんが・・・君のお母さんが、亡くなった。”
その訃報を受け。
僕は五年ぶりに、一度たりとも連絡すらしていなかった実家に、帰省する事となった。
「・・・」
西へと向かう列車の中。
『僕の遺伝子の、父さんから受け継いだゲノムのみを選別して父さんのDNAを再現・・・』
五年間の疑問に、結論を出した。
『無理だ。』
大学の講義、読みあさった論文、教授、講師への質問の回答。
あまつさえ、教授には医者よりもSF作家の方が向いていると言う嘲笑まで頂いてしまった。
『なら・・・あの子供は・・・』
考えるまでもない。
叔父は、詳しい事は会ってから話すと死因を伏せたが。
『・・・自殺、だろうな。』
きっと”その事”を、知った上での絶望に、自ら命を絶ったのだろう。
”葵さんが妊娠したのは、君の子じゃない。”
叔父の、その宣言が、不意に耳に蘇った。
「伸君。」
実家では、既に通夜の準備がほぼ完了していた。
玄関先で待ち構えていたのは、喪服の叔父と。
「おにいちゃん、だぁれ?」
叔父に手を引かれた、”母の産んだ子”だった。
「・・・」
そう。
真相に気付いた僕には、一目でそれが解った。
「叔父さんは・・・」
「・・・」
叔父も。
僕がそれを悟った事を感じ取ったのだろう。
宙を仰ぎ、静かに瞼を閉じた。
「小さい頃は、父さんにそっくりだったんですね。」
叔父を、責める気は、無い。
もし、何年も。何十年も。
想い続けれど手の届かない相手と。
自分の子供を設ける機会が、あったのだとしたら・・・
その誘惑に打ち勝てなかったとしても。
それは・・・
「?」
訳が解らずにいる幼子は。
叔父の面影が差し始めた、その顔をちょこん、と傾げた。
[完]