Nicotto Town



悪夢の果 4

それから、五年。

僕は、下宿からほど近い大学の医学部に進学した。

下宿先の老夫婦は、僕に本当に良くしてくれている。

子供が出来なかったのだと言うその老夫婦は、時折、僕を養子に迎えたい旨を零すようになった。

そんな矢先。

 

”伸君。落ち着いて聞いてくれ。”

 

叔父からの、電話。

 

”葵さんが・・・君のお母さんが、亡くなった。”

 

その訃報を受け。

僕は五年ぶりに、一度たりとも連絡すらしていなかった実家に、帰省する事となった。

 

「・・・」

 

西へと向かう列車の中。

 

『僕の遺伝子の、父さんから受け継いだゲノムのみを選別して父さんのDNAを再現・・・』

 

五年間の疑問に、結論を出した。

 

『無理だ。』

 

大学の講義、読みあさった論文、教授、講師への質問の回答。

あまつさえ、教授には医者よりもSF作家の方が向いていると言う嘲笑まで頂いてしまった。

 

『なら・・・あの子供は・・・』

 

考えるまでもない。

叔父は、詳しい事は会ってから話すと死因を伏せたが。

 

『・・・自殺、だろうな。』

 

きっと”その事”を、知った上での絶望に、自ら命を絶ったのだろう。

 

”葵さんが妊娠したのは、君の子じゃない。”

 

叔父の、その宣言が、不意に耳に蘇った。

 

 

 

 

 

「伸君。」

 

実家では、既に通夜の準備がほぼ完了していた。

玄関先で待ち構えていたのは、喪服の叔父と。

 

「おにいちゃん、だぁれ?」

 

叔父に手を引かれた、”母の産んだ子”だった。

 

「・・・」

 

そう。

真相に気付いた僕には、一目でそれが解った。

 

「叔父さんは・・・」

 

「・・・」

 

叔父も。

僕がそれを悟った事を感じ取ったのだろう。

宙を仰ぎ、静かに瞼を閉じた。

 

「小さい頃は、父さんにそっくりだったんですね。」

 

叔父を、責める気は、無い。

もし、何年も。何十年も。

想い続けれど手の届かない相手と。

自分の子供を設ける機会が、あったのだとしたら・・・

その誘惑に打ち勝てなかったとしても。

それは・・・



 

「?」

 

訳が解らずにいる幼子は。

叔父の面影が差し始めた、その顔をちょこん、と傾げた。

 

[完]




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