Nicotto Town



サラスの巫女 後編

「それでは、これより!」

 

翌日。

神殿内。

祭壇の上。

声を張り上げる、司祭を兼任した、村長。

 

「村の安全と、繁栄を祈願し!」

 

白い布の被せられた、寝台。

古老の掲げる、ギラギラと輝く剣。

 

「巫女、エミナ=ミューデントを!」

 

『エミナ・・・!』

 

袖から、ゆっくりと。

自らの足で、寝台に向かう、エミナ。

 

「大いなる女神、サラスに捧げん物とす!」

 

「エミナっ!」

 

俺は。

もう、じっとしているなんて事は出来なかった

村人達を掻き分け、祭壇へと駆け出す。

 

「覚悟は良いな。エミナ。」

 

村長が、エミナを寝台へと促す。

 

「はい。ですが・・・」

 

「待てっ!」

 

エミナが何かを言い掛けた、その時。

俺は、祭壇に到着した。

 

「何だ余所者!これは神聖な儀式だぞ!」

 

「エミナの命を奪って、神聖もクソもねぇ!」

 

「控えろ!ここは余所者が土足で荒らして良い場所ではない!」

 

「大体、安全と繁栄って何だ!何人巫女を殺しても!結局水害は止められなかったんじゃないか!」

 

「知った風な口を利くな!」

 

「だけどもう氾濫は起きない!巫女を捧げたからじゃない!治水工事が上手く行ったからだ!」

 

「えぇい!黙れ!」

 

村長は。

古老達は。

射殺さんばかりの視線で、俺を睨み付ける。

 

「どちらにしろ、余所者のお前には関係の無い話だ!」

 

だが。

それでも。

 

「関係は、あるっ!」

 

怯んで等、いられない。

 

「何だと!」

 

止める事等、出来ない。

 

「エミナは、俺が絶対に守るっ!何故なら・・・っ!」

 

止まらない。

止まっちゃ、いけない。

 

「エミナは俺の妻だ!」

 

エミナを、救う為に。

 

「何を、馬鹿な。」

 

村長は、怒りの表情を、嘲笑に変えた。

が。

 

「本当です。」

 

「エ、エミナ!?」

 

エミナの声に振り向き、顔を強張らせ。

 

「う、嘘だ!まさか、そんな!」

 

明らかに、動揺の態を示し始めた。

 

「・・・」

 

そんな村長に、エミナは。

薄い笑みを浮かべつつ、その手を示した。

 

「そ、それはっ!」

 

指輪を嵌めた、その手を。

 

「な、何と言う事をっ!」

 

村長が、恐慌を起こす。

古老達が、右往左往し始める。

村人達のざわめきが、広がって行く。

 

『な、何だ?』

 

明らかに、場の空気が変わった。

一体、何が起きているのか。

俺には解らないまま。

 

「私は昨日、この場で、女神の名の元に、タイチと契りを結びました。」

 

エミナが、はっきりと宣言した。

 

「お、お前、何をしたのか解っているのかっ!」

 

「・・・」

 

エミナの笑みは、崩れない。

 

「め、女神サラスに身を捧げる巫女はっ!」

 

村長の声が、裏返る。

 

「未婚の、汚れ無き処女でなくてはならぬ筈っ!」

 

「え・・・」

 

その言葉に。

思わず俺も、唖然としてしまった。

そして。

 

「ええ。ですから。」

 

エミナが。

凛、とした立ち姿で。

 

「私は昨日、サラス様の捧げ物としての資格を、失ったのです。」

 

「あっ・・・!」

 

そうか。

そう言う事だったのか。

俺は、茫洋と。

エミナの顔を見詰めていた。

 

「皆の者!」

 

やがて。

祭壇中央。

サラス像を背に。

エミナが、村人達に向かって、声を発した。

 

「サラス様は、皆の信仰と代々巫女達の献身に、慈悲と御力を御示しになり!この地に、使者、タイチを遣わしました!」

 

しん。

と。

静まり返った神殿内に。

エミナの声だけが、響く。

 

「それにより、川の乱れは正され、氾濫に苦しめられる事は無いようお計らいを下されたのです!」

 

「エミナ・・・」

 

「よって、もう巫女の犠牲は要らぬ!これよりは、ただ、女神サラス様のお心と恵みに感謝しつつ!生業に励むよう!」

 

その、毅然とした横顔は。

まるで。

女神が自らの言葉を伝えているように、見えた。

 

「それが、女神サラス様の、慈悲深き御心です!」

 

ははぁ、と。

村人達、一斉の。

感嘆の溜息。

全員が祈りに。

頭を、垂れていた。

 

「・・・」

 

そして、祭壇上は。

村長が肩を落として、俯き。

古老達が膝を落とし、半開きの口のまま、何もない宙を眺めていた。

 

「エミナ。」

 

俺が呼び掛けると、エミナは。

 

「えへへ。」

 

女神では無く。

いつもの、少女の香りを残した女の顔で。

俺にぺろ、と舌を出して見せた。

 

 

 

 

「エミナには敵わないなぁ、全く。」

 

「ふっふー。」

 

それから、数時間後。

俺とエミナは。

村を出た、鬱蒼と木々の生い茂る山道を、並んで歩いていた。

 

「でも、これで本当に良かったのか?」

 

「ずーっと狭い村に引き籠ってる暮らしには、飽き飽きだったからねー。」

 

「・・・」

 

「私は、もっと広い世界を見てみたいの!」

 

俺達二人は。

結局、村の戒律を破った者として、村を追放と言う憂き目に遭ってしまったのだ。

が。

 

『エミナが楽しそうだから、まぁいいか。』

 

俺は、そんな風にも思っている。

 

「しかし、それもそうだよなぁ。」

 

「ん~?何がぁ?」

 

「戒律や掟をあらかじめ知ってる村の男達じゃ、結婚の相手役は絶対に引き受けないだろうし。」

 

「・・・」

 

「それを知らない俺は、適任だったって訳かぁ。」

 

「・・・そう言う所が、タイチのいい所だとは思うんだけどね。」

 

「え?」

 

何だろう。

さっきまで、あんなに上機嫌だったエミナが。

急に険しい眼差しで、俺の顔を覗き込んで来た。

 

「・・・私、村から追放されても、やっぱりサラス様の信徒ですからねっ!」

 

「・・・はぁ?」

 

「ふんっ!」

 

「あ、お、おい。」

 

何だ?

一体、何なんだ?

何を怒っているんだ?

混乱する俺の目に、ふと。

 

「あ・・・」

 

きらり。

エミナの指に嵌った指輪の、陽を反射した輝き。

 

『昨日・・・』

 

俺達は。

エミナは。

未だエミナが信仰していると言う、その女神の前で。

・・・何を誓った?

そして、その儀式の前。

エミナの、言葉。

 

”あなただから”

 

「エ、エミナ!」

 

俺は、エミナに慌てて駆け寄った。

その様子が滑稽だったからか。

エミナの機嫌は幾分戻ったようで。

 

「うふふ。」

 

艶やかな黒髪で弧を描き、笑いながら振り向いてくれた。

 

 

 

 

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2018/01/29 15:39
異世界転生物が一時期流行っていたので、私も書いてみようかな、と構想して見たのですが。
何やらこう・・・
RPGやらファンタジーやらの事前知識が無い物で、剣や魔法、ドラゴンの登場する冒険譚は描けず・・・
こんな話になってしまいましたwww



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