Nicotto Town



おとなり勇者<序>①

「ふふふ・・・ここが地上界か・・・」

空を覆う、暗黒の空気。
地を染める、朱い影。
揺れる巨躯。
地獄の底から響くかの如き笑い。
その禍々しき姿に、目の当たりにした全ての人間は同じ名を脳裡に浮かべた。

『魔王』。

「そ・・・そんな・・・」

ある者は自失し

「こ、この世の終わりだ!」

ある者は嘆き

「神よ!」

ある者は祈り

各々がそれぞれに絶望を現す。

「ま、魔王め!」

が、そこに。

「何の目的で魔界からやって来た!」

一人の勇気ある若者が。
”おいやめろ””殺されるぞ”
周囲の口々の制止を振り切り、魔王に問う。

「ここは俺達の村だ!好き勝手な事は・・・!」

「目的?お引越し。」

「・・・は?」

「だってさぁ、魔界ってさぁ。しょっちゅう火山は噴火してるし、沼とか川の水は毒水だし、空気は悪ぃし、岩場ばっかで畑も作れないんだもん。最悪っしょ?」

「・・・」

「だからさぁ、どっか居住環境のいいとこないかなーって思っててさぁ。そういや地上界って住みやすそうじゃん、って話になってさぁ。」

「そ、それで、手始めにこの村を侵略・・・!」

「でもここ、他人(ひと)ん土地かぁ・・・参ったなぁ。」

「・・・え?」

「ねぇ君。どっか無い?誰の土地でも無い場所。」

「え?えー・・・っと・・・」

毒気を抜かれてしまった若者は、目を点にしたまま、譫言の様に呟く。

「・・・トマル王国とミラン帝国の間に、所有権が決まってない領土があるみたいだけど・・・」

「おっ!それいいね!さんきゅー!」

「あ、ち、ちょっと!」

「いい事教えてくれたお礼に、毎年の農作物、どれかを豊作にしておくね!」

呆然とする村人達を尻目に、魔王は去って行った。

余談であるが、以降、その村ではやたらとナスが良く育った。
他の物を植えてもナスが育った。
ヤケクソになった村人たちは自らの村を「ナス村」と呼び、聞き知った経緯にウケた周辺の村、都市から大勢の人間がナスを買いに訪れ、ナスの名産地として栄える事になってしまったのであった。

<つづく>






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