Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「癒しの水~復活遊戯~後編」

癒しの水 ~復活遊戯~
 後編

夢を見た。

幼い頃の夢を。

里長の子供ため、生贄の烙印を押された兄弟二人。

里の子供たちからも仲間外れにされていた。

ケンカっぱやいエンユと違って、大人しいクルトは攻撃の標的にされていた。

双子でそっくりという事で『エンユと間違えた』とばかり、クルトに対して嫌がらせをしてくる。

そんな中、『クルトと見分けがつけばいいんだな』と手に持ったのは太く大きな針。

躊躇いなく刺したのは、自らの左耳の耳朶。

『耳飾りしているのが俺だから、これから絶対間違えるなっ』

勢いにのまれて逃げるように去った子供たちを見送った後、二人してわんわん泣きながら両親の元に戻った記憶がある。

悔しさと憧れと、決意。

共に歩むために、強くなると。

 

翌朝、クルトはエンユを連れて泉にやって来た。

エンユも幼い頃からクルトと同じように毎日の沐浴を日課としており、生贄の呪詛を浄化することにより、邪術士たちに居場所を突き止められないようにしていたのだ。

各院にはそういう身を清めるための泉が必ずある。

「さすが水の西院、豪華だな」

大理石で囲われた泉を見てエンユが軽口をたたく。

上半身の衣を脱ぐと、躊躇いなく水の中へと進む。

泉に潜り、全身に水を浴び顔を水面に出した所で、クルトが声をかける。

「昨日の右肩、見せてください。まだ完治してないんですから」

傷は塞がったが雷獣に噛まれた後もまだ生々しく残っている。

応急処置的に、法術で現した聖水で血止めと解毒の処置をしたが、普通の人なら熱が出たりして安静が必要な怪我だ。

水を滴らせながら、素直にクルトの居る泉の縁へと移動してくる。

傷口に手を当て、泉水の力を借りながら癒しの法術で傷ついた奥までの回復を促す。

ふっとエンユが笑った気配。

「なんですか?

「いや、なんか変わってないなぁと思って」

「何が?

「気が付けば怪我をしていた俺に、いつも手当てをしてくれてたなぁ、と」

「あぁ、・・・そうですね」

後先考えずに自ら前に出るエンユに対して、だったらその受けた傷を治せるようにと、まだ法術など使えなかった子供の自分でも出来ることをするようになった。

「うん、だから安心して怪我をすることができた」

「え?! 何度も怪我しないようにって注意したよねぇ」

「クルが怪我をするよりいいかな、と」

「エンが痛い思いするのがイヤなんです」

 あははははと吹き出すようにエンユが笑い出す。

「ガキの頃から全然成長してないな」

「ホントですよ、まったくもう…」

答え合わせをするように、過去の記憶が甦る。

「てことで、お前も入れ」

「え?

かざしていた腕を捕まれると、ぐいっと引き寄せられる。

反射的に手を伸ばした先は何もなく空をつかむだけ。

大きな水しぶきを上げて、クルトの身体が水中へ沈む。

「ちょ、なんてことするんですかーーー」

心底楽しげに笑うエンユに怒りをぶつけるも、ずぶ濡れになった自分自身にクルトもいつの間にか笑い出していた。

 

焦りがない、というと嘘になる。

彼が実力と共に北院の長として、歩いて行く背中を見るには。

自分にはまだ許されているのだと感じる。

誰かの後を歩いていてもいいのだ、と。

まだ導いてくれる師と仰ぐ人が、側にいることで。

彼はもう、前を向くしかないのだということ。

 

 

沐浴から戻って来た時には、シエロが飛んで北院から連れて来た沙羅と沙耶兄妹が西院に到着していた。

会議出席のための、エンユの飾り付け。

威厳のある北院の長としての正装。

張り切っている沙耶に、観念したようにされるがまま装飾品を付けられるエンユを見て、笑みを隠せない。

ふと、左耳に目が留まる。

普段は装飾系のあまりない輪っかの飾りを通しているだけだが、今は風をイメージしたデザインの羽根飾りが揺れている。

クルトの視線に気づき、エンユがふと笑みを浮かべる。

確か、鳥の羽根を集めてエンユの耳飾りを作ったこともあったか。

離れたことで分かる、対等でいられる関係。

どんな立場になっても、お互いにふざけて笑いあっても許される双子の兄弟だという関係。

「クルト様は飾り付けしないんですか?

「いえ、私は側に控えているだけなので」

「エンユより絶対カッコよくなるだろうに…」

「なんで俺よりカッコいいんだよっ」

「エンユにない、知性と信頼があるからよ」

反論できなくてチッと舌打ちするエンユに、会議の資料に目を通している沙羅が言葉を挟む。

「今日はいつも通り『どこからそんな自信が?』という堂々とした態度でお願いしますよ」

「お前もにっこり笑って見せろよ、一番それが効くだろうから」

四院会議の集合の合図の鐘が耳に届く。

「さて、うるさい爺どもを黙らせに行くか」

「そうですね」

隣に立ち、同じ方向を向いて、歩き出す。

 

END2018.1.20

書いたー 終わったー (*^─^*)ニコッ
久しぶりに小説書いた感じですね。
つーか、1週間でここまで書くなら、途中になってるネタ小説ももっと書けるだろうがーという思いはとりあえず、金庫にしまってください(笑)
イメージのために久しぶりにイラストを描いたら、今回の主人公クルトの方がカッコよく描けてしまった…そんな事を踏まえての彼らのセリフw

キャラの関係性を整理していて思いついた行動で、
危険な戦いに挑むことになった時のエンユの行動
 クルトには 一緒に戦ってくれとお願いする
 沙羅には  後の事は頼むと残していく
 沙耶には  待っててくれと戻ると約束して置いていく
 戯加には  ついて来たいなら来い
 シエロには うん、来るだろうな

また気が向いたらタイトルにもなってる完結編の「復活」を書き上げたいと思います。


さて、これから思考を創作小説から創作クラフトに切り替えて、クイリングのデザインを考えて試作品を作らないと。





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