ナラボート
- カテゴリ:小説/詩
- 2010/12/09 22:30:42
余所様でサロメに関する話題を拝見しました。
コメントを寄せた皆さんも、ブログの書き手さんの意見も面白かったですよー。
眺めてるだけでも楽しめました。
で、うっかりついでに僕も一言二言三言……うーん、まぁちょっと喋りすぎたかな、ぐらい書きこんじゃってね。
あれ以上書くのも気が引けるんで、今日は僕の方でさらっと書いてみる事にしました。
閑話休題。
今回の話題にするのは旧約聖書版じゃなくて、ワイルドの「サロメ」だよ。
「おお、野性的(ワイルド)なサロメなんだー」
……って違うからね。
ワイルドはねぇ、「幸福な王子」を書いた作家さんの名前だね。
ほら、燕が金箔宝石キンキラリンの王子像から色々はぎとって、貧しい人に配った挙句、死んじゃう話。
童話だね。うん。
「サロメ」は本来は旧約聖書に出て来る預言者ヨハネの死にまつわる話を、脚色したもんだね。
あらすじは……うーん、まぁ長くなっちゃうから割愛、っと。
劇脚本だからちょっと読みづらいかもしれないけど、興味が沸いた読んでみると良いかもね。
そのワイルド版サロメの中に出て来るキャラクターにナラボートという男がいる。
警護隊長をしてて、井戸の中に居るヨナカーン(ヨハネだね)の見張りの責任者も兼ねてる。
舞台がヘロデ王の城だから、まぁ警護隊長も居る訳だね。
この彼は主役たるサロメ(ヘロデ王からすれば義理の娘、立場は王女)に惚れてるんだねぇ。
「如何にも美しい、今宵のサロメ王女は」なんて歌っちゃうぐらい。
その後、彼がどうなるかというと、サロメ王女に誘惑されてうっかりヨナカーンに彼女を引き合わせ、それがきっかけで王女がヨナカーンに迫るシーンを見せつけられ、最終的に嫉妬のあまり自害して果てる。
死体はそのままサロメに一瞥もされないまま、王の命令で「不吉だから片付けろ」、でポイ。
……うーん、まぁなかなか気の毒な感じの役柄だね。
さて、ここで視点を一転。
警護隊長のナラボートはサロメの魅力で破滅させられたのか。
うん、まぁそれはそうかもしれない。
サロメに焦がれなければ、その誘惑に負けなければ彼女とヨナカーンのラブシーン(まぁ、一方通行だけど)を見る事も無かっただろうし、それに自害する程苦しむ事も無かったろうしね。
そこで嫉妬で自害しなかったとしても彼の人生は多分終わってる。
何せ、王命を破って犯罪者ヨナカーンと王女を引き合わせちゃったんだから。
職務怠慢も良いトコだよね。
仮にあの場で自害しなかったとしても、彼がその後何のとがめも受けないとは考えがたい。
それを忘れるほど、或いは良識を放棄させるほど、サロメの存在は彼にとって毒だったんだろう。確かに、彼にとってサロメは破滅を呼ぶ女性だったわけだ。
じゃあ、彼がサロメに破滅させられても良いと思う程焦がれてたかってゆうと、そこはまたちょっと僕は違うと思う。
本当にサロメに恋をしていたのかすら微妙だなぁ、ってのが僕の印象。
だって、王女様なんだよね、相手は。
しかも王様の懸想してる相手。手が届くはずが無い。
ナラボートはサロメを見て「美しい」と歌うけど、アイドルを見て「良いなぁ、あんな子が彼女だったらなぁ」と言う男みたいなもんだと思う。
それが唐突にテレビの向こう側から出てきて声をかけられたもんだから、舞い上がって職務を放棄して、言う事を聞いてしまった。
その結果が見返られるどころか生々しい王女のヨナカーンへの告白を目撃。
死んだ彼の胸中にはサロメへの愛なり恋慕なりがあったのか?
僕は、多分そんなものじゃなくて後悔があったんじゃないかと思う。
「こんなはずじゃなかった」
遠くから眺めて綺麗だ綺麗だと言っている間に描いてたサロメ像と違う生々しさを見せつけられ、しかも自分は一時の興奮に職務放棄してもはや言い訳出来る状況でもない。
「何処で間違ったんだろう」
「何処で踏み外してしまったんだろう」
「こんなことならしなければ良かった」
破滅願望なんて恐らく持ってなかったナラボートは、でも一時の気の迷いゆえに破滅したんじゃなかろうか。
それは別に運命論とかじゃなくてね。
偶々、運悪く、或いは縁に触れて、何処かで何かを踏み外した結果かな、と。
神しか見ないヨナカーンとかよりも、彼に親近感を覚えるのは僕だけかなぁ…。