Nicotto Town


つれづれ、ひねもす


【再掲】2.石の群れの中に猫を投げ込む

「それで、どうなさいましたの?」

日頃よりも早い時間に起こされても文句ひとつこぼすことも無く、勤勉かつ優秀なクリスタルのゴーレムたちは女主人の部屋に暖炉の火をいれ、急な来客にも慌てることなく温かなモーニングティーを用意した。
膝の高さよりほんの少し高い程度のサイズのゴーレムから乾いたタオルを受け取り、アウインは雪を被った髪を拭くのを見ながら、マダム・ネージュは滑らかな頬に指先を沿えて小首を傾げた。
 その髪はメイドのゴーレムによって既に美しく結い上げられ、寝間着にガウン姿だった服装は瀟洒なモーニングドレスに変わっている。幅広のレースのチョーカーをつけた細い首筋から肩へのラインは華奢な撫で肩で、たっぷりとひだを取ったパフスリーブと、対照的に引き絞った手首の対比がいっそう彼女の細やかさを際立たせている。
純白の雪を頂く山から湧き出た、湧水の最初の一滴。
その清らかさを連想させるようなマダムの声音に、アウインは「リュビへ届けに来ました」と端的な応えを返し、引き寄せた青い旅行鞄の鍵穴へ胸元から引き出した鎖付の鍵を填め込む。ガチリ。金属の噛み合う重たい音を立て、跳ね上げ扉のように蓋が開き、中から表れたのは頑丈そうな鳥かごだった。
「まぁ……」
その鳥かごの底に蹲って低く威嚇の声を上げる生き物に、マダムの目が丸くなる。
「この方は……新しい宝石ですわね」
「チワワ州で餓死しようとしているところを拾いました。デザートローズ(砂漠の薔薇)のロザです」
「まぁ、それでこんなに窶れて……怖がってますわ」
砂色の猫に似た、しかしネコには無い皮膜翼を背にしたその生き物は、疑いと敵愾心に満ち満ちた唸り声をあげ、小さな牙を剥き、砂まみれの汚れた毛並みを必死に逆立てている。しかし、その怒りが虚勢に過ぎないことはぺったりと寝た耳と、足の間に入り込むように丸まった尾、限界近くまで見開かれた目が物語っていた。
その状態のままじりっ、じりっと籠の中の【獣】は後じさると、唐突に尻尾に火が点いたかのように飛び上がった。
ガシャン。
盛大に鳥かごが鳴る。
そのまま腰に巻いた布に足を縺れさせながらギーギーと悲鳴めいた声を上げ、カゴの柵へ何度も体を打ち付けては跳ね返され、それでも何とか逃げ出そうとする様にマダムはハッと息を呑んで痛々しさに眉を寄せ、視線をアウインへ向ける。
貴婦人の目差しに、青い石は静かに微笑んだ。
「開けても良いのですか」
「えぇ、そうして頂戴」
「では」
ぎぃぎぃと鳴きながら、掻きむしる端から欠ける爪でひっかいていた籠の扉をアウインが取り出した鍵で開けると、【獣】は勢いよく中からとびだし、そのまま正面のアウインの胸元へ飛び込み、不満をタップリ込めた鳴き声を上げながら、がぶりとのど頸へ噛みついた。
拍子にぼろり、とまた牙が欠け、アウインが軽く片方の眉を動かす。
「無駄ですよ」
「ジャアアア!」
「そうです」
「ヒニィィ!ギニィィィ!ン゛ン゛ヤムヤムゥ……」
「そうですか」
ベチベチとシッポを叩きつけながら精一杯の抗議の声を上げる【獣】――ロザに、眉一つ動かさずに微笑んだまま応えるアウイン。
何となくお互いの関係が見える光景に、マダム・ネージュはあらあらと苦笑して、その白くほの光るような繊手をロザへ差し伸べた。
「ご安心なさって。ここは安全な場所ですわ」
穏やかな声音にロザと名付けられた子猫はバッと音がしそうな勢いで振り返り、しかし、素早くアウインとソファの背もたれの隙間に入り込んだ。
「あら……」
ぱちりと長い睫毛をしばたかせ、マダムは伺うようにアウインを見る。
彼もわずかにだが首を傾げている様子を見るに、おそらく彼にとっても予想外の行動だったのだろう。
しかし、アウインはどこまでもアウインだった。
情け容赦の無い手が背面に回って、幼気な子猫の首根っこを掴んで明るい表へ引きずり出す。
ヒニィ、と子猫の口から悲しげな声が漏れた。
「まぁ……」
「マダム・ネージュ、少し魔力をいただけませんか」
「構いませんけれども……どうなさいますの?」
「ロザに」
「ンニィィィ!?」
諦めたように項垂れていた子猫が、その言葉を聞いた途端また暴れ出した。
「ギアア!ウナウナウナウナア!」
「自分で賄えないのですから仕方ないでしょう。ずっとその姿で居るつもりですか」
「ウナアアア!」
「その姿では何を言っても通じませんよ」
「アウイン、あまり無理強いしては気の毒ですわ。子猫はそのように扱うものではありませんよ」
ジタバタ暴れる子猫を慣れた手つきで抑えてるアウインと明らかにひどく嫌がっている子猫の様子に、マダム・ネージュが控えめに紅唇を開いて制止したその時、

「おはようございます、マダム」

軽やかで華やかな声と共に春風が室内に吹き込んだ。

アバター
2023/07/07 23:21
うちのリラなら怒るかもしれないなf(^^;、と思いましたf(^^;;
アバター
2023/04/29 06:32
挿絵の順番間違えたことに気がつきましてorz
アバター
2023/04/28 20:34
あれ(。☉_☉)??

どうしてコーデ写真がなくなっちゃったの(・・?



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