Nicotto Town


アオイさんの日記


side 春雷・1

 強風が窓を軋ませる音に、そういえば今日は午後から天気が崩れるって言っていたっけ。なんてことをヤマブキが思ってたら、あっという間に窓の外の空模様は荒れ始めた。


 その時、ヤマブキは友人のカスミと一緒に最近できた喫茶店でお喋りをしていた。
 この喫茶店。まだ若い、ちょっと頼りなさそうな女の子がひとりで切り盛りしているのだが、なかなかどうして居心地の良い空間なのだ。
 まずコーヒーが美味しい。紅茶も美味しい。そして甘くて素朴なヤマブキ好みのお菓子が置いてある。そしてそして美味しいだけでなく安い。頼りなさげに見える店員の女の子(アオイと言う名前だ)は案外しっかりしていて、お店の中にはいつも安定した空気が流れている。更に、これがとても大切なポイントなのだけれども、長居をしても嫌がられることが無い。
 最後のはお店自体がまだ始まったばかりであまりはやっていないせいでもあるのだけど。ヤマブキとしてはこのまま流行らないでくれ。とも思ったりしつつ。だけど、それもまた自分本位の考えでいかんな。とカウンター脇の招き猫に、しっかり働くのだよ。と話しかけたりもした。
 そんなヤマブキに、アオイはそのたれ目の目元を更に和ませて、ありがとうございます。なんてお礼を言ってきたりもして。その様子がまた、店の中にまったりとした空気を広げるから、また来たいなあ。なんて事をヤマブキに思わせるのだ。


 例えるならば、そう、昔から仲の良い友人の部屋のような、そんな気楽さと居心地の良さがある喫茶店なのだ。
 
 ヤマブキの友人であるカスミも、同じようにこのお店が気に入っている。更に言うともう一人の友人であるナンテンも家が遠いのでまだ一度しか着ていないけれど、このお店を気に入っているようだった。
 
 そんなわけで。お気に入りのお店に居るし、雨が降ったとしても別に更に長居をするだけだし。とヤマブキは天気の変化を特に気にしていなかった。むしろ長居の口実が出来てラッキー、ぐらいに思っていた。カスミもヤマブキと同じことを考えていたようで、ぼたぼたと大きな雨粒が屋根を叩く音を聴きながら、じゃあ、とコーヒーのおかわりをアオイに頼んだりしたのだから。

「お待たせしました。」
なみなみとカップに注がれたコーヒーをアオイが持ってきてくれた。
 カスミの分と、ヤマブキの分も新しいものを入れてくれたようだ。カップから立ち上るコーヒーのどっしりとした香りが思考を覚醒させる。
 お砂糖を少し入れて一口飲み、うむこのコーヒーも美味い。とゆっくりを頷くヤマブキに、なにその評論家みたいなコメント。とカスミが苦笑した。
「美味しいのは確かだけどね。」
そう言ってカスミもコーヒーを飲み、焼き菓子に手を伸ばした。つられてヤマブキも一口サイズに切り分けられたブラウニーに手を伸ばす。
 ねっとりとしたチョコの生地にかちりとしたナッツの食感。コーヒーとチョコの組み合わせは本当に最強だわ。なんて事を思うヤマブキの耳に、隣のテーブルに座る少年がアオイに話し掛けているのが聞こえてきた。


――――――
調子に乗って、再び日記でない文章です(笑)
やっぱりこういう文章の方が書きやすいのもあります。
ヤマブキさんの方が私の性格に似ている気がするなあ。




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