一度、南国でちょっとお高めの部屋に泊まった事があるのですが、ベッドがふかふかで、それはもう快眠でした。
あまりのふかふか具合に、癒しを求めてお昼寝をしたりしたものです。
（旅行中なのに！勿体ないというべきか、リゾートらしいというべきか）
また行きたい…というか、あのベッドが欲しい…。

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ぽたぽたと水滴が髪を伝って落ち、床に水玉の模様を描いた。
この部屋は、ホテルのプライベートビーチからそのまま階段を使って二階のテラスを通り抜けて部屋に入る事が出来る。
窓が開いているのを確認して、私は海から陸へとあがった。
開け放たれた窓からずぶぬれの私が部屋へと入り込んだ瞬間、この部屋の主である男は一瞬だけ目を丸くして、けれどすぐににっこりとほほ笑んだ。
「いらっしゃい」
そう言って、頭の先からつま先まで濡れている私にタオルを差し出してくれる。
何か飲む？そう問いかけてきた男に、私は部屋の中に視線を巡らせて、じゃあカクテルを作って頂戴。と返事をした。
「もうお酒を飲んでも良い年齢だっったかな？」
「一応」
からかうような男の口調に、私は心の底ではむっとしながらも、出来る限り大人びた調子で返事を返した。
一応も何も、今年、飲酒できる年齢に達したばかりだったのだが、そんな事をわざわざ言うのも子供じみた行為のような気がしたので、言わないでおく。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、男はくつり、とひとつのどのあたりで笑い、カウンターに入った。
カシャカシャ、と手際良くカクテルを作る男の手元に視線を向けながら、私はさきほど手渡されたタオルで濡れた髪をぬぐった。ふかふかの白いタオルはおひさまの匂いがする。その感触を心地よく感じていると、グラスにカクテルを注ぐ音が響いた。
「どうぞ」
「ありがと」
差し出されたグラスを手に取り、ひとくち、舐めるように飲む。
甘さと、ほんの少し舌の表面をしびれさせるような苦みが、あった。
「…おいしい」
本当はこれが美味しいのかどうか良く分かっていなかったけれど、そう言う。そんな私の言葉も気持ちもすべてお見通しのように、男はくつり、とまた喉のあたりでひとつ笑った。
「私はビールを頂くよ」
そう言って男は備え付けの冷蔵庫を開きビールを出した。
プルタブを開けるときの、プシュ、と軽妙な音が響く。ビールこそ、苦いばかりで私には美味しさがよく分からない。ごくごくと喉を鳴らして美味しそうに飲む男の横顔を眺めながらそんな事を考えてながらまた、ちびりとカクテルを舐めた。
「ねえ」
声をかけると、なに？というように男が柔らかく見返してきた。
「なんでもない」
「何でもない、ということはないだろう？」
「なんでもないもの」
気まぐれな私の態度に、男が困った顔で微笑んだ。


一年。長いようで、短くて、だけどやっぱり長く感じられた一年。
お酒が飲めるようになって、髪も伸びて、去年の服が少しだけ似合わなくなって。
少しだけ大人に近づく事の出来た一年。
あなたは、あなたにとって、この一年はどうだった？
私に会いたかった？
昔と変わらない、穏やかな横顔に、そう訊きたくて。けれど無邪気に訊けるほど、もう子供ではなくて。
子供の頃のようにまだ無頓着に訪れることはできる。けれど、無邪気に近づく事が出来なくなってしまう程度には、もう大人で。
大人になるのは、嬉しい、けれど、ときどき息苦しい。

「ねえ」
「なに？」
私の声にあきれるような面白がるような調子で男が返事をする。
「なんでもないよ。ただ」
「ただ？」
「やっぱりなんでもない」
そう言ってにやりと笑ったら。
くつり、と男が面白がるように喉のあたりでひとつ笑んだ。