side 春雷・2
- カテゴリ:自作小説
- 2011/04/16 16:29:23
「凄い風ですね。」
「そうですね。自転車、大丈夫ですか?お店の中に入れておきますか?」
「壁際に寄せたんで、大丈夫です。ありがとう。」
どこかぎこちない様子のその会話を耳にしつつ、ヤマブキはそっとカスミに耳打ちをした。
「ねえ、あの少年はアオイちゃんにほのかな想いを寄せていると思わない?」
「同感。だけどアオイちゃんは気が付いていないわね。少年が、もうひと押ししないと駄目ね。」
「そのひと押しがなかなか難しいのよ、思春期にとっては。いいねえいいいねえ、甘酸っぱいわねえ。」
「その言い方、おっさんくさいわよ。」
取り留めもなくそんなやりとりをしていた時。がたがたと風が一段と強くなった。
ふわり、と空気中に、何か生温かなものが満ちた。ふわりと産毛が逆立つ。全てのものが帯電しはじめて極限ぎりぎりまで膨れ上がるような様な、そんな気配をヤマブキは肌で感じた。
あ、くる。そうヤマブキが思った瞬間。暗雲で真っ暗になってしまった窓の外で目が眩むほどに鮮やかに白い光が、一瞬またたいた。そして間髪いれずに響き渡る、まるで爆発のような大きな落雷音。
ひゃあ。とアオイの叫び声があがった。雷に怯えるなんて女の子らしいなぁ。と、カスミが知ったらまたおっさんくさいといわれそうな事をヤマブキが思っていると、ばちん。と電気が消えた。
どこかで雷が落ちたんだね。なんて事をいつもと変わらない落ち着いた調子でカスミが囁いてきた。そうねえ。とヤマブキは不意の停電に、わくわくと気持を浮き立たせながら頷いた。
ぜんたい、ヤマブキはこういう非日常な出来事が好きだった。勿論、大災害を楽しむことなど出来ないけれど。大雨でちょっと交通に支障が出た。なんて位の災害ならば大歓迎なのだ。
台風がくればやたらお菓子を買いこんだりおにぎりを握ったりするし、大雨が降ればあえて雨戸は閉めずにじっとその様子を眺める。雪が降ったら暖かい飲み物をポットに詰めてマフラーぐるぐる巻いてあちこち歩き回り、雷なんか来たら、とりあえず光と音との間隔を数えてどれくらい近いか予想したりするのだ。
停電で真っ暗な中。また光らないかな。とヤマブキがわくわくと窓の外を眺めていると、ごろごろ、と再び鳴った雷の音に、ひ。とアオイが小さく悲鳴を上げるのが聞こえてきた。
「アオイさん、大丈夫ですか。」
自転車の少年が怯えている様子のアオイに心配そうに声をかける。その声に、はいぃ、と何とも情けない声でアオイが返事をした瞬間、ごろごろと追い打ちを買えるように雷鳴が轟き、お約束的結果として、アオイがまた小さな悲鳴を上げた。
全然、大丈夫じゃないじゃない。とヤマブキは苦笑しながら、口を開いた