Nicotto Town


アオイさんの日記


side 自転車少年の憂鬱・1

 赤い、短めのスカートに赤いチェックのエプロン。白いブラウスの袖は夏らしく半袖で、そこから細い腕がすらりと伸びている。胸元を強調する形のベストは、アオイが華奢な体つきのせいかいやらしさは無く可愛らしさの方が引き立てられている。首に赤いリボンのチョーカーを巻き、動きやすいように足もとはスニーカー。
 腰に巻いているポーチはいつものものだけど、アオイの格好はいつもよりも華やかで可愛らしかった。ナチュラルで大人しい印象の服装ばかりだったアオイの、可愛らしさ全開な今の恰好はなかなかどうして破壊力がある。
 と、密かにアオイに想いを寄せているヘイゼルは、忙しそうにテーブルの合間を行き来しているアオイの姿を眺めながら思った。
 黄金週間であるこの時期。タウンは人でごった返しにぎわっていた。店で買い物をしたり、ゲームに興じたり、お喋りの花を咲かせたり。この連休をタウンの住人達は思い思いに楽しんでいる。

 そんな中、つい先日オープンしたアオイの店もまた、この連休らしいにぎわいを見せていた。
 元々興味があった人が連休をきっかけにお店に来てみたのか、あるいはたまたま目にとまったのか。店内は常に客が居て途切れる事がなく。そしてこの店でひとりきりの店員であるアオイはずっと給仕をしたりお茶を淹れたりケーキを切り分けたり、と忙しそうだった。
 忙しいのはアオイさんにとって嬉しい事なんだろうけど。ひらりとスカートのすそを揺らしながら忙しそうに、それでも生き生きと動き回っているアオイを眺めながら、ヘイゼルは思った。
 相手にしてもらえなくてちょっとさびしいな。なんて思ってはいけないだろうか。

「ヘイゼル少年よアオイちゃんの生足をガン見しすぎじゃないかな。」
物憂げな気持ちでプリンを食べていたヘイゼルに、からかうような響きを伴ってそう声をかけてきたものがいた。
 つい目で追ってしまっているだけでべつにアオイさんの生足だけを限定で眺めているわけじゃない。
 その良く知っている声にヘイゼルが顔をあげると、案の定、ヘイゼルと同じくこの店の常連のヤマブキがにやにやと笑みを浮かべて経っていた。そしてその横にいる、長身の男はやっぱり常連のサハラ。
「二人一緒になんて珍しい。もしかしてヤマブキさんとサハラさん、デートだったんですか?」
からかわれた事を返してやろうと、ヘイゼルはわざとらしい笑みを浮かべてそう言ったが、からかう余裕も与えないあっさりとした表情で、二人に首を横に振った。
「まさか。たまたまそこで一緒になっただけよ。」
「席が埋まっているから、相席をお願いしても良いかな?」
サハラがそう言ってくる。その言葉に良いですよ、とヘイゼルは頷いた。
 ヤマブキとサハラが二人掛けのソファーに腰をおろし、、しばらくしてアオイがいらっしゃいませ、と注文を取りに来た。常連客が一つの席に集っているのが珍しいのか面白いのか。ミントの香り付けがされたお冷をふたつ、ヤマブキとサハラの前に置きながら、その口元を柔らかく綻ばせた。
「ご注文は何にしますか?」
「私はコーヒーと焼き菓子。」
「俺も、コーヒーと焼き菓子で。」
ヤマブキとサハラがそれぞれ注文を口にする。その内容にヘイゼルは何か引っかかるものを感じた。アオイも、おや、というように微かに首をかしげている。しかしすぐに、かしこまりました。とアオイは頷きカウンターの方へ戻ってしまった。




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