Nicotto Town


アオイさんの日記


side 上手な心配下手な謝罪・1

 街中にあるオープンテラスのカフェによく知っている顔を見かけ、カスミは思わず足を止めた。路のぎりぎりまで張り出されたテラス席に、二人の女性が座っている。ひとりは小柄で可愛らしい雰囲気の女性で、もう一人はすらりと背の高い活発な印象の女性。どちらもカスミの長い付き合いの友人である、ナンテンとヤマブキだ。
 ちょこんと椅子に腰かけて可愛らしくソーダ水を飲むナンテンに対し、ヤマブキはだらけきった様子で椅子に身体を預けている。こうみると対照的な二人であり、かつ自分とも異なる性質の二人なのだが、腐れ縁と言うべきか、彼女たちとの友情は今も続いている。

「ヤマブキ、ナンテン。」
店と路との境目として置かれているロープが張られたポール越しにカスミが声をかけると、ナンテンがぱっとこちらを向いて笑った。
「カスミちゃん、久しぶり。」
そう言ってひらひらと手を振るナンテンに、本当に久しぶりね。とカスミも笑みを返した。
「折角あんたがこっちに来ているのに、仕事が忙しくて時間がとれなかったものね。」
「今は?暇なら一緒にお茶、飲もうよ。」
そう微笑むナンテンに、そうね、とカスミは頷いた。

 今日も又、夜遅くまで仕事が終わらなさそうだったので、今のうちに何か腹ごしらえをしておこうとカスミはいったん仕事を切り上げて、外に出たのだ。このままアオイのところに行こうと思っていたのだが、別にここのカフェで何か食べても同じ事だ。
 くるりと入口の方に回って店の中に入りナンテンたちの席に着くと、カスミはぱらぱらとメニューを見て、小さくため息をついた。メニューに不満があるわけではなかった。ベーコンときのこのクリームソースパスタとか、魚介のトマトソースとか、かなり興味をそそられる内容だ。だがしかし、典型的な外食である。
 当然と言えば当然の話なのだけど、ここのところずっとアオイの店で食事をとっていたので、その当然のことをすっかり忘れていたのだ。

 焼き鮭、煮物、生姜焼きに、おみそ汁、時にはスパゲティやグラタンなども。本来アオイのお店ではきちんとした食事は出していないのもあって、カスミがそれでも食事を頼むと家庭料理的な定食を出してくれてた。素朴な味わいの和食は、忙しくて疲れた身体と心にしみじみと沁み渡る。
  そもそもの話、アオイのところにヤマブキたちを連れて行くチャンスだったかもしれなかったな。と思いながらカスミはやってきた店員に、どうせならばこってりしたものを食べようと、カルボナーラを頼んだ。

 セットについてきたサラダをもしゃもしゃと食べながら、カスミはナンテンと近況報告を交わしつつ、つまらなそうにケーキをつついているヤマブキにちらりと視線を向けた。
 遠くで暮らしているナンテンとは違い、ヤマブキとはしょっちゅう会っている。だから先日、何があったのかは聞いていたけれど。と苦笑しながらカスミはナンテンに囁いた。
「ずっとこんななの?ヤマブキは」
「うん。ずっとご機嫌斜め。」
どこか面白がるように言うナンテンに、それは大変だったわね。と笑った。
「子守、お疲れ様。」
「子供と言うにはヤマブキちゃんは大きいけどね。」
そう言って、あーあ、とナンテンはわざとらしく大きなため息をついた。
「ヤマブキちゃんのせいで、私までアオイちゃんのお店に行けなくて困るのよねえ。」
「私はほとんど毎日行ってるけどね。」
追い打ちをかけるようにカスミがそう言ってにやりと笑った。
「もうすぐ出す予定の、新作ケーキの試作品を味見させてもらっちゃった。」
「ええ、いいなぁ。やっぱりヤマブキちゃん放って私も覗いてみようかなぁ。」
「じゃあ明日の夕飯に、ナンテンも一緒にアオイさんのお店に行こうか。今日みたいに、また私外食するようだし。」
「そうしようかな。いい加減、ヤマブキちゃんの子守には飽きてきちゃった。」




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