Nicotto Town


アオイさんの日記


side 上手な心配下手な謝罪・2

そんな風に明日の予定を立て始めた二人に、ずるい、とヤマブキがぶうとむくれた。
「二人してずるい。」
拗ねるようにそう言うヤマブキの、予想通りの態度にカスミはくすりと笑った。
「ずるいって思うのだったら、一緒に来ればいいじゃない。」
「そうよヤマブキちゃん。それで、さっさとアオイちゃんに謝ればいいのよ。」
更にナンテンも言葉を続ける。けれど、別に謝るような事はしていないもの。と二人の言葉にヤマブキは口を尖らせた。
「思った事を言っただけよ、私は。だって本当に疲れた顔してたんだもん。」
「そう思うならば、気にすることなくお店に行けばいいじゃない。」
あっけらかんと言うカスミに、ヤマブキは、無茶を言うな。と顔を顰めた。
「さすがの私も、気にするわよ。アオイちゃんが傷ついたって分かるわよ。だけどやっぱり、私、間違った事を言ってないもの。だから謝りたくない。」
堂々巡りのヤマブキの思考に、カスミとナンテンは顔を見合わせた。


 アオイのような子には、きっとヤマブキみたいに正面きって心配が出来る人が傍に居るべきなのだろう、とカスミは思っていた。
 自分では照れが入ってヤマブキのようにちゃんと心配が出来ない。サハラも遠回しに気遣うのが上手だけど、ああいう心配のし方ではむしろ「頑張らなくちゃ」と相手に思わせてしまうからちょっと違うし、ヘイゼルでは逆にアオイが、大丈夫か。と心配してしまうだろう。
 だから、ヤマブキがアオイの傍でぶうぶう言っていればアオイも無茶はしないだろうし、無茶をして苦労を重ねない方がアオイも長くお店を続けていけるだろうから。
 好みの喫茶店があり続ける事はカスミにとっても嬉しい事だし、なによりもやっぱり、楽しげに働くアオイを見るたびに、長く続くと良いな、と思うから。


 これはもう、時間が解決してくれるのを待つしかないのかな。なんて事を思いながら、やってきたカルボナーラをカスミが食べていると、ふとナンテンが、良い事を思いついた。とでもいうように目を輝かせた。
「そうだ。ごめんなさい、って言わなくても、お店を手伝えばいいのよ。」
ナンテンのその提案に、なるほど。とヤマブキもカスミも頷いた。
 が、しかし次の瞬間。まるで打ち合わせでもしていたかのように、そろって二人は首を横に振った。
「無理よ。ナンテン、あんただってヤマブキの不器用さを知っているでしょうが。」
「お皿をすべて割る自信ならばあるんだけど、私。」
口々にそう言う二人に、そうだったわね。とナンテンもため息をついた。

「良い案だと思ったのだけどな。だけどそうね、ヤマブキちゃんがお手伝いしたら、お店が潰れちゃうわね。」
ため息まじりにそう言うナンテンに、でも、とヤマブキは口を開いた。
「だけど、誰かがお店の手伝いに入るっていうのは良いわね。私は無理だけど、カスミ、あんたは?」
「今、仕事が忙しいから無理よ。手伝う余裕は無いわね。」
そう首を振るカスミに、良い案だと思ったのに。とヤマブキはあーとも、う―ともつかない唸り声を上げた。
「そうだなぁ、暇そうな奴に、声をかけてみようかな。」
「誰か心当たりでもいるの?」
ナンテンの問い掛けに、サハラさんかヘイゼル少年。とヤマブキは呟いた。
「どっちか暇じゃないかなぁ。特に、サハラさんはしっかりしているから、器用に何でもこなしてくれそうだし。」
ヤマブキの言葉に、ああ、とカスミも同意するように頷いた。

 サハラならば確かに器用そうだし。しっかりもしているから、どんなに忙しくなってもきちんと対応できそうだ。それになかなかの美丈夫だからギャルソン姿とか、似合うかもしれない。
「良いんじゃない?じゃあヤマブキ、明日必ずサハラさんにそれをお願いして、一緒にアオイさんのお店に行きなさいね。」
有無を言わせない笑顔でカスミがそう言うと、えー、とヤマブキは嫌そうな声を上げた。
「いいじゃん、サハラさんにお願いするだけで。一緒にお店に行かなくても。」
「丁度良いきっかけになるでしょう?」
「だから、私は間違っていないもん。」

ぶうぶうと文句を言うヤマブキに、カスミはゆっくりと首を横に振った。
「たとえ、自分は間違っていないと思っていたとしても、傷つけたのならば、やっぱり謝るべきだと私は思うわ。」
聞き分けのない子供を諭すように、真っ直ぐに見つめらながらカスミがそう言うと、ようやくはぁい、とヤマブキは小さな返事をした。




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