Nicotto Town


アオイさんの日記


side エプロンとブーケ・1

 窓の外の風景、四方八方全てが空だった。

 あれ、なんだかいつもと違う?と驚いたアオイが周囲を見回すと、そこは雲の上だった。どうやらいつの間にか天空の街へお店が引っ越してしまったようだ。しかも内装もなんだかとても今までの店と違う。

 きちんと四方を覆っていた壁は無くなり、代わりに白い神殿のような柱が並んで屋根を支えている。床の色合いはモダンな白黒から柔らかな色味に変化しているし、椅子や机などもシックなアンティーク調のものから、ややカジュアルな雰囲気の変化していた。

 ええと、でも。場所が天空の街に移動したからといってもここはお店だから。お客様をお出迎えするためにも準備をしておいたほうがいいのかな。
 そう思うのだが、不思議な出来事に見舞われた驚きで、なかなか体が動かない。
 途方に暮れた様子で店の真ん中で立ちつくすアオイの足元に、しっとりと温かなものがすり寄ってきた。
「マロ」
足もとに視線を向けると、それはマロだった。
 マロが、アオイの事を心配するようにじっと黒い瞳を向けてきた。その眼差しをじっとアオイが見つめ返していると、大丈夫。と言うようにマロが頷いた。
 こくん。とゆるぎない様子で頷くマロに、うん、とアオイも頷き返し。
「よし、じゃあ開店準備をはじめよう」
と自分に言い聞かせるように呟いた。

 今日は平日なので、サハラさんはお手伝いに来ないけど。でも天空にお店が移動したから、混むかな。そしたら少し困るなぁ。
 そう思いながら、ケーキや飲み物の準備や、あらかじめ作っておいた食事用のピクルスの味を見たり。店内のお花などにお水を上げたり、置物の剣の上の埃をそっと拭ったり。
 そうやってアオイがわたわたと店内で動き回っていたら、こんにちは。と明るい声が響いてきた。

「こんにちはー!」
そういつも以上に元気の良い様子でやってきたのはヤマブキだった。その後ろには、カスミとナンテンもいる。
 三人とも何故だかいつもよりも華やかな姿だった。ヤマブキは華やかオレンジのミニスカート。カスミは落ち着いた薄水のシフォンスカート。ナンテンは赤の水玉ワンピースにレース編みのボレロ。
 それぞれが、まるで小さな花束のように個性的に着飾っているその様子に、素敵。とアオイは頬を綻ばせた。
「三人とも可愛い」
そうはしゃいだ声を上げるアオイに、それはそうよ、とカスミが嬉しそうに微笑んだ。
「今日は大切な日だからね。めいっぱい着飾ったんだから」
「こうやって参列者がおしゃれをするのも、お祝いする気持ちのひとつだからね」
満面の笑みを浮かべてそう続けたナンテンに、お祝いがあるんですか?とアオイは驚いた声を上げた。
「え、今日は何かのお祝いなんですか?」
どうしよう、私、何の準備もしていない。
 あわあわと慌てだしたアオイに、キョトンとした顔で三人は顔を見合わせて。そして面白い事でもあったかのように声を上げて笑った。




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