―きい、と扉が開く音を聞いたような気がして。アオイは目を覚ました。
「あ、起きた」
アオイの横で、くすくすと笑いながらナンテンが、おはよう、と声をかけてくる。
「アオイちゃん疲れていたのね。凄く気持ちよさそうに眠っていたよ」
ふふふ、とおっとりと微笑むナンテンに、結婚式は？アオイは思わず聞いてしまった。
「え？結婚式？」
「はい。もうすぐ結婚式で。私、着替えなくちゃいけなくて」
慌ててそう言って、立ち上がって。はたとアオイは自分の周りがいつも通りのお店である事に気が付いた。
「あれ、天空のお店…」
あれ、あれ、と夢の中と同じように立ちつくしたまま、ぼんやりと首をかしげるアオイに、夢を見てたのね。とカスミが微笑んだ。
「私たちがお店に来たら、アオイさん、ソファでお昼寝してたのよ」
「マロも一緒になって足もとで寝てたし」
番犬の役目を果たさないとだめでしょうが。とヤマブキがひょいとマロを抱き上げて、わしわし、と少し乱暴な手つきでその小さな頭をなでた。
「まあまあ座って」
そうナンテンに促されて、アオイは少し気恥かしさを覚えながらすとん、と再びソファに腰を下ろした。
「はいどうぞ」
そう言って、斜め前に座るカスミがポットからお茶をカップに注いでくれた。
　どうもありがとうございます。と紅茶が注がれたカップを手にとって。あれ、誰が用意したんだろう。と首をかしげるアオイに、勝手にお店を漁っちゃった。とナンテンが無邪気に言った。
「ごめんね、勝手にお茶とかコーヒーとか淹れちゃった」
えへ、と笑いながらそう言うナンテンにアオイは、とんでもないです。と声を上げた。
「とんでもない、こっちこそすみません。なんか、皆さんに気が付かないで眠ってたなんて」
どれだけ、自分は爆睡していたんだ。と真っ赤になりながらアオイはわたわたと首を振った。
　お客様の切れ間に、ちょっとソファに腰をおろして、目を閉じた事は覚えている。だけどそのままずっと眠っていたようだ。
　本当にもう恥ずかしい。と顔を赤らめながら、紅茶を飲むアオイに、ヤマブキが興味津々の笑顔で問い掛けてきた。
「アオイちゃん、それで、結婚式の夢を見てたの？アオイちゃんが花嫁さん？」
わくわくと瞳を輝かせて問い掛けてきたヤマブキに、こくん。とアオイは頷いた。
「皆さん、とてもお洒落な格好してましたよ。私も早く着替えなくちゃいけなくて。でもドレスが無くて、」
そう返事をするアオイに、それで、とヤマブキが少し焦れた様子で更に問いを重ねた。
「で、アオイちゃんの相手は誰だったの！？」
「えっ」
わくわくとした眼差しはヤマブキだけではなかった。カスミもナンテンも、興味津々だと雄弁に語る、きらきらとした眼差しをアオイに向けてくる。

　どうしよう。結局だれが花婿さんだったか分からないままだったんだけどな。
　困ったことになった。とヤマブキの腕に抱かれたままのマロに視線を向けると、夢の中と同じ、ゆるぎない調子で、うんうん。とマロは頷いてきた。

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ありがちですが、夢オチで（笑）
アオイさんのお相手は自転車少年か一人旅の青年か、まだ出てきていない人か。はたまたゲーム好きの親父たちか。
…だれにしよう。

マロの「うなずく」は「ゆるぎない調子で熟練のうなずく」なのです。
ゆるぎない調子でうなずかれたら、かなり心強いよな～。