Nicotto Town


アオイさんの日記


side 合理主義者

 お願い事、かぁ。
 
衣装の丈を直しながらカスミは、うーん。と中空に視線を漂わせた。
「そうね、小さいころはお菓子屋さんになりたかったわね。あとお花屋さんにも」
その言葉を訊いてアオイは思わず驚いた声を上げた。
 カスミは大きな会社でOLとして働いている。以前、カスミの同僚だという人が店に来た時に、第一線で働くその様子は格好よくて頼りになるんだよ。なんて事を話してくれたりもして。だからそんなカスミが、お花屋さんというのはどうにも正反対な印象がしたのだ。
 言った本人も、そう思うのだろう。苦笑しながら、理由は単純なのよ、と言った。
「お菓子屋さんになればお菓子を沢山食べられる。お花屋さんになればお花をいっぱい飾る事が出来る。ってね」
子供らしい発想よね。と笑うカスミに、アオイは、じゃあなんで今の仕事に着いたんですか?と首を傾げた。
「カスミさんの会社はお菓子の会社じゃなかったですよね?」
「うん、花の会社でもないわよ。…そうね、世の中の仕組みに気がついたから、かな」
「仕組み、ですか」
「そう。お金を稼げばお菓子を沢山買えるし、お花だって沢山手に入れることができる。でしょう?」
その言葉に、なるほど。とアオイは大きくうなずいた。
「それに、その方がよほど合理的だと気がついたのよ。好きな事だから、といってもお菓子を作るのが上手かどうかは別の話だから」
そう言ってカスミは針を置き、ひょい、と手を伸ばしてテーブルの上のケーキを一口食べた。
 甘いクリームでデコレートされたケーキに、にんまりと微笑んでカスミは言った。
「つまり、美味しいものを食べたくなったらアオイちゃんの所に来て、食べればいい、ってこと」
そしてもう一口、カスミはケーキをほおばった。
 アオイはなんだか照れくさくなりながら、アイスティーのお代わりを用意しようと席を立った。


 




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