Nicotto Town


アオイさんの日記


side 弱い音・2

「そんな顔して弾くほどに、難しいフレーズなのか?」
考え事をしながらも指は動いていたようで。ひたすら同じフレーズを弾いていたヤマブキに、そう声をかけてきた者がいた。
 それは髭のおじさんだった。手には冷たい飲み物が注がれたグラスがふたつ、あった。
「アオイちゃんからだよ。蒸し暑いのに、ヤマブキさんが外でずっと練習しているから、って渡してくれた」
そう言って、髭のおじさんはヤマブキにグラスを差し出した。
 演奏のしすぎで熱を帯びた指でグラスを掴んだ。冷たいその感覚が心地よい。生姜とはちみつの味付けをされたソーダ水が、ぐつぐつと煮立ち始めていたヤマブキの思考を落ち着かせてくれる。
「あー生きかえった」
思わずそんな事を口走ったヤマブキに、あの世へ片足突っ込んでたのか?と髭のおじさんは苦笑した。
「そんな暑かったんだったら店の中へ戻ればよかったじゃないか」
「ううん、そういう意味じゃなくて。なんか私らしくない、弱気な気持ちになっていたのよ」
そう言ってヤマブキはもう一口ソーダ水を飲んだ。
「ねえ髭さんはさ、無理して私に付き合ってる?」
「は?なんだそれ?」
「うん、無理して明日のライブに付き合ってもらっちゃってるのかな。と思って」
そう言うヤマブキに、髭のおじさんは苦笑を浮かべながら、そんな事は無い。と言った。
「俺はやりたかったからやっているだけだ。そもそもヤマブキさんがそんな弱気な事を言うとは思わなかったよ」
髭のおじさんのからかうような言葉にヤマブキは頷いた。
「うん、私も久しぶりに弱気になった。なんか、私だけがやりたい事に、皆を巻き込んでいるような気がして」
そう言って、ふふふ、とヤマブキは不敵に笑った。
「まあ、今更やりたくなかった。と言っても許さないけどね」
その言葉に、ヤマブキさんは怖いな。とひげのおじさんは笑った。
「だけどそんな心配は必要ないんじゃないかな」
「え?」
「だってほら」
そう言った指の先、庭から店内へとつながっている大きなテラスの窓が開いた。
「ヤマブキさん」
開いた窓から半身をのぞかせてそう声をかけてきたのは、アオイだった。
「ヤマブキさん、今ならばお店にお客さんいませんから。明日の練習できますよ」
少し遠慮がちに言うアオイの表情は明るく、その瞳はどこかわくわくとしたひかりを帯びていて。
 ほらね、やっぱり皆楽しんでいるのよ。何弱気になっているのよ私。
そうヤマブキは自分自身に言って、ベースとグラスを手に店内へ入った。



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そういえば、髭の親父と帽子の親父の名前を決めていなかった…
な、名前どうしよう…

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2011/07/17 14:00
>Mizさん
コメントありがとうございます~☆
書いている私も、名前を覚えるのが大変になってきています(笑)
この話は人がたくさん出すぎだなぁ。と思いつつ。
というか、そろそろ名前のネタも無くなってきましたw
どうしよう~!!
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2011/07/16 18:43
まとめて読んでるから、先の題名が見えちゃってるけれど
「髭のおじさん・帽子のおじさん」という呼び名もいいですよね^^
読者としては覚える名前が増えると大変ですし!ヾ(´▽`*;)ゝ"
題名だけしか見えていないので(先のストーリ)わかりませんが
オヤジーズ(?)は名無しもイイナ(笑)



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