Nicotto Town


アオイさんの日記


side 風邪と夢・2

ちょっと気を抜くと泣き出しそうになってしまう。
熱は相変わらず弱気になった体を蝕み攻撃してくる。すん、と鼻を一つ鳴らしてアオイは更に自分自身を抱きしめるかのようにころんと丸まった。

また夢を見た。
気がつくとアオイはふかふかの雲の上に居た。
ああ夢の中なんだな、と思いながらアオイは周囲をぐるりと見回した。
けれど、広がるのは真っ白い雲海ばかり。だあれもいない。
おおい、と、誰かいないか、と叫びたかったけれど喉が腫れて詰まってしまったようで、声が出ない。
誰もいない雲の上を風が渡り、アオイのくせっ毛を揺らした。ひゅうひゅうと風切り音が耳の横でうるさいくらい響いている。耳に手を当てて塞いでも、音は指の合間からすり抜けて耳の奥までやってくる。
淋しさを増すその音に、アオイはその場にうずくまった。
一人きり、ひとりきり。
しんしんと、冷たい感覚が胸の内側に降り積もる。息苦しさを覚えながらアオイは泣いた。

と、不意に誰かがアオイの手をつかんだ。

吃驚してぱちりと目を開けると、目の前にイサナの顔があった。
「え、イサナさん?」
驚いたままかさかさの声でアオイがその名を呼ぶと、イサナはこくりと一つうなずいた。
「なんで?」
「なんで、ってアオイが風邪をひいているから」
そう言ってイサナは、アオイが目を覚ましたよ、と背後に向かって声をかけた。
しゅんしゅんと、お湯が沸いている音が遠くから聞こえた。これはいつ?夢はどこからどこまで?
ほどなくして寝室に現れたのはヤマブキとサハラ。
二人は目を覚ましているアオイの姿にホッとした様子で枕もとに寄ってきた。
「今、温かなスープを作ってますよ」
食べられますか、とサハラが柔らかく聞いてくる。横でヤマブキが少し怒ったような顔で、口を開いた。
「イサナちゃんが私たちを呼びに来たのよ。さっきまでヘイゼル少年もいたんだから」
その言葉に、礼を言おうとアオイが視線をイサナに向けると、イサナはそっぽを向いて、だって、と言った。
「私じゃ、スープも作れないし」
そっけないその口調の中に温かなものを感じ、アオイはその華奢な背中に、ありがとう、といった。

サハラの作ってくれたスープは、庭でとれたかぼちゃのスープでとろんと甘く優しい味がした。
「風邪をひいてる時は甘えていいんだから」
そうヤマブキが言った。少し怒っているような、そんな調子に、けれど、アオイはなんだか嬉しい気持ちになった。
ありがとうございます、とアオイはヤマブキとサハラにも頭を下げた。
「ちょっと淋しい夢を見て、でも目が覚めて良かった」
熱で少しぼんやりとしながらもアオイがそう言って笑うと、良かったね、とサハラが微笑んだ。
「安心して寝ていいよ、アオイさん。誰かが傍に居るからさ」
サハラの言葉にイサナとヤマブキも横で頷く。
ほっとしながらアオイが再び床に就くと、ベッド横のサイドテーブルに花が活けられているのが目に入った。
「このお花…」
「ヘイゼル君が持ってきたよ」
アオイの視線を受けて、イサナがそう答えてくれた。
庭から摘んできたのだろう、柔らかな色のマーガレットがグラスに活けられている。その可憐なたたずまいに、アオイは笑みをこぼしながら、綺麗。と呟いた。
「ヘイゼルさんにもお礼を言わないといけませんね…」
そう呟くように言うアオイに、元気になるのが一番のお礼よ、とヤマブキが言ってぽんぽんと布団の端を軽くたたいた。
「だから、ゆっくりお休みなさい。アオイちゃん」
やわらかなその手に、懐かしいものを感じながらアオイは目を閉じた。

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2011/10/20 21:53
>れんげさん
こちらこそコメントありがとうございます!

ひとりだと自由で、何でも挑戦できる束縛のなさとかありますが、
でも一人きりはやっぱり淋しいものです。
私は甘えたがりなので(笑) 周囲に支えてもらってばかりなのですけどね。

イサナさんはアオイちゃんという友達ができて、不器用ながらも優しさというものを知っていくような感じがします。
基本的に手探り状態で書きすすめているこの日記ですが、喜んでいただけて幸いです^^
それでは!
アバター
2011/10/19 23:06
昨日、深夜に読ませていただいて、何だか つーんとしてしまいました。

目を覚ましたときにいたのが まずイサナちゃんだったのにも ぐっときて。。
人とかかわって生きていかなければならないから、傷つくことも多いけど
ほんのわずかな優しさに 救われることもままあって。。

基本、一人で立っていたいと頑張ってしまうところがあるので
もう少し、周りに甘えても良いのかなと やわらかい気持になれました^^
ありがとう♪



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