Nicotto Town


アオイさんの日記


side スノードーム・4

 サハラの言葉の通り、果たしてヘイゼルはそこに居た。
 冷たく金と凍った空気の中、ヘイゼルはしゅんと背筋を伸ばして空を見上げている。澄み切った夕暮れの空、藍に染まりかけた天蓋に一番星がきらめいている。
「ケーキをどうぞ」
そう声をかけると、吃驚した様子でヘイゼルは振り向いて、それからアオイの姿に更に驚いた様子で瞳をまるくした。
「あ、アオイさん」
「ここにいるって聞いたので、ケーキ、持ってきました」
そう言ってケーキの皿を見せると、ああ、と画点が言った様子でヘイゼルは小さくうなずいた。
「ありがとうございます」
そう言いながら皿を受け取る。けれど、ケーキには手をつけず、庭に出していたテーブルにことんと皿を置いた。
「やっぱり店内に戻りますか?」
寒いから、やっぱりお店の中の方がいいだろうか。そう思いながらアオイが問い掛けると、ヘイゼルはああともいえともつかない言葉をもごもごと呟きながら首を横に振った。
「もう少し、ここに居ます。あの、」
「はい」
「アオイさんも、よかったら」
「はい、居ます」
ヘイゼルの言葉に頷いて、アオイはその横に立った。一緒に空を見上げる。大して時間はたっていないと思うのに、今はもう残照が微かに地平に残るばかりだ。その代わりのように、星のきらきらの光があちらこちらに瞬き始めている。
「綺麗ですね」
白い息を吐きながらアオイがそう言うと、ヘイゼルも、そうですね、と頷いた。
「この時期の夜空は、空気が澄んでいていちばん綺麗です。寒いけど」
そう言いながらヘイゼルは少し笑った。
「ねえアオイさん」
「なんですか?」
「おれも居なくなったら、ワタリさんの時みたいに淋しく思いますか?」
そう問い掛けてきた。その問い掛けに、アオイは吃驚した。
「ヘイゼルさんもどこかに行っちゃうんですか!?」
「たとえ話ですよ。どこかに行く予定はないです」
「たとえ話…」
ヘイゼルの言葉に少しだけホッとしながら、アオイはヘイゼルを見上げた。自分よりも少し背の高いヘイゼルは、少し焦れた様な表情でじっとアオイを見つめてきていた。
「ワタリさんはアオイさんにとって大切な知人で、よく知っている人で。じゃあ俺はなんだろう、ってちょっと考えちゃったんです」
「ヘイゼルさんは…」
自分にとって何のだろうか。ちゃんと考えた事はなかった。とアオイはじっとヘイゼルを見返した。
 少し、いつもとヘイゼルが違うような気がした。見知らぬ男の子を目の前にしているような、そんな気持ちになりながら、大切な人、とアオイは言った。
「ヘイゼルさんも大切な人です」
そう言ってアオイは手を伸ばした。ヘイゼルの自分よりも大きな手をぎゅうと握りしめた。何か、ちゃんと伝えないとヘイゼルもまたどこかへ行ってしまうような、そんな気がしたから。
「ヘイゼルさんはこのお店の一番最初のお客さまで。ずっと来てくれるから、ずっとずっと、これからもお店に来てくれると、そう思うくらい、ヘイゼルさんも、大切な人、です」
少しずつ考えながらアオイはそう言った。
「大切な人、ですか」
何故だかヘイゼルは少しだけ淋しそうに、そう言った。
 ヘイゼルは何が淋しいのか分からない。けれど自分の言った言葉は的を外していたのかもしれない。アオイはそう不安に思いながら、あの、と声を上げた。
「店の中に戻ったら、私、ヘイゼルさんの好きなホットチョコを淹れますね」
ヘイゼルを元気づける方法はそれしか知らなかった。だから、そう言った。
 ヘイゼルは一瞬、驚いたような表情でアオイを見つめて、それからやっぱり少しだけ淋しそうに笑って。ありがとうございます。と言った。
「でもケーキがチョコレート味だから、コーヒーの方が嬉しいかな」
そう茶化すように言うヘイゼルに、アオイもまた小さく笑って。そうですね、と笑った。
 ヘイゼルが何を伝えたかったのか、まだ分からないけれど。何か淋しい思いをしているのならば、温かい飲み物を出してあげたい。そんな事をアオイは思った。


 これ、クリスマスプレゼントです。そう言ってヘイゼルは店に戻る前に包みを差し出してきた。
「俺は、アオイさんの傍に居る事を選びますよ」
そう言いながら手渡された包みの中身はスノードームだった。
 綺麗、とそのスノードームを揺らしてアオイは微笑んだ。

―――――――
アオイさん!!とその方を揺さぶりたくなるくらいのアオイさんの天然っぷりで、書いていてちょっといらっとしました(笑)
ヘイゼル少年はなんだかヘタレだし。

なんにしろ、メリークリスマス!

アバター
2011/12/25 16:52
>藍流さん
コメントありがとうございます!

もー、私自身がヘタレだからなのか、少年はなかなか言ってくれませんww
そういう意味でも、書きながらもやっとしてました
店内では皆がやきもきしながら覗いていたというのに!w

本当に、はた目から見てる分には楽しいのだけど、少年、頑張って!!w

それでは!
アバター
2011/12/24 21:36
メリークリスマス、アオイさん!
少年もメリクリー☆(w

リア充爆発しろ、というにはちょっと可哀想かな(笑j)
傍目からすると甘酸っぱいんですけどねぇ。
アオイさんはあれですね、「付き合ってください」と言われて「はい、何処へ行きますか?」というタイプですねw
はっきりきっぱり曲解の余地無く告らないと駄目そうだ……ヘイゼル少年に幸あれ!w



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