Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


コントラッド家

ひびの入った壁に ほこりはまみれていた

間からつたの出た 石の壁が

胡散臭さを臭わす


コントラッド家の石の壁は

今日も ほこり臭く建っていた


机の上に置かれたフラスコから

妙な臭いが立ち昇る


こぼれた薬液からは 机と反応する臭いがした


「お兄様」

エリザベスは、18の飼い娘だった。

家から出ることもかなわず、いいように
飼われているのだった

「ん、どうした」

兄のヴァッテロは言った


「どうかしたのか?」

お兄様 と呼ばれているヴァッテロは

22の長身の男だった

暖炉の飾りよりも高い身の丈で
薬品を混ぜるのが趣味の、“蒼碧”という言葉がびったりの
美男子だった。

「あの……」

やれやれ、あの二人は知らんぷりだ。

いつもこの私が何を言っても、聞くふりすら見せない。

いつもこんな感じだ


「お兄様、大変です。

隣のコルタッド城の者が遣いに訪れています。

あの例の件では……」


そこに大きな足音で従者が入ってくる。

「待たれよ」

「“隣り家”のルブラーニ家のことであったら

それがし共にお任せください。

お嬢さまの出る幕ではありません」

護衛を務める パトロ・ヘンリーだった。


奴は護衛はこなすものの、そのことに関しては
めっぽううるさい。 いわば、お堅いやつ だった。

「アルフィーネ様」

パトロは偉そうだった。

「なんだね」

「例の遣いでしたら、私どもの手で追い返しましょう」

ヴァッテロは答えた。

「おおそうか。やってくれるか」

ヴァッテロはアルフィーネ様のファーストネームだ。


「ええ、そのうちに奴らの慌てた顔が思い浮かびます」

パトロは意気揚々だった。

ヴァットロ・アルフィーネ・コントラッドは、聞き返した。

「で、その例の件だが……」

パトロの顔が急にしかめっ面になる。

「果たして、勝算はあるのかね?

私の計算では、明日ルブラーニのところに
王城からの使いが来るとか」

パトロは言った

「それは……」

ヴァットロは続けた

「例の儀式まで、あと3日しかないぞ。

私の家は、出席しないということにしてあるが

ルブラーニ家はそれにつけこんで私の宮廷の役職を
奪う気でいるようだが」


パトロは驚いた顔で言った

「暗殺、ですか……」

ヴァットロ様は続ける

「マルセイユまで行くことにする。

ついて来たくなかったら、ついて来なくていい。

私とリザと従者だけで行く。

分かったな」


「ほぉ……」

パトロはわざとらしげだった。

「なるほど、逃避行されるので」

この年増な警備係の隊長は、いやらしげだった。

「それはなにより、“兄上殿”。この書き入れ時に

ご旅行とは。さぞ楽しいでしょうな」


「ううむ……」

アルフィーネ様は答えられた。

「私の宮廷職のことは、どうでもいい。

心配なのはエリザベスだ。この“ひきこもり”を放っておくわけには
いかない。

な、ついてくるな リザ」

ヴァットロはいかにも兄貴風を吹かしているようだった。

エリザベスは答える

「ええ……お兄様」


そうだ、私も支度しなくては。

アルフィーネ様は、従者に準備をするよう告げられた。


ここコントラッド家は、

わりと低い貴族でありながら

宮廷職にも就く名家だった。

ヴァットロ・アルフィーネ様はその当主

父上も宮廷に仕えられておられるので
いわば“家を任せられている”状態だった。


今日もこのお屋敷は蔦の生えた石の壁に
薬品の臭い

他の者はそう簡単に出入りできない、
怪しい屋敷だった。


-**続く**-









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