バレンシアの船乗り
- カテゴリ:自作小説
- 2013/04/27 16:29:16
陸(オカ)に戻ってから久しい。
今日もバレンシアの港では、ひっきりなしに船が行き交う。
遠くから見てると、羊の群れのようだ。
ネーデルラントでは、カッターなる船も作られたらしい。
地中海のイスパニアじゃあ、未だにキャラベルだ。
あの喫水をもうちょっと浅くして、
舳先を高くして……
って考えているうちに日が暮れてるじゃねえか。
仕方ない。今日はフランシスの家にでもご馳走にあがるか。
バレンシアの港が見渡せるこの高台では、
「羊」の群れが今日も行き交う。
羊飼いは羊にまたがって……
考えてるうちに太陽が沈んできている。
日の沈まぬ帝国とはよく言ったものだが、
イングランドに負けて以来
イスパニアは上がったりだった。
砂糖が来ねぇ、カカオが来ねぇだの
連日難破やら遭難やらで
船乗り生命も上がったりだった。
もっとも、アフリカのどっかに連行されて生きてるかもしれない。
そう思うのが、「船乗り」の間での合言葉のようになっていた。
陸暮らしは悪くない。
もっとも、稼ぎ口があればいいのだ。
もう船では雇われっこない。
毛頭、そのつもりもないが。
いまではすっかり陸が板に付いて、
陸暮らし“サン・アンドロ”の農家なんて言われている。
もっとも、知ったこっちゃねぇが。
イスパニアがアメリカから運んできたもの。
疫病だとか、タバコだとか
もっぱら噂にはなったらしい。
もっとも、あれ以来
どこも商売上がったりだってのは
聞くところによるのだが。
幸い、上手く切り抜けられた。
だが、海と同じで
この先何があるか分からない。
もう体がなまって久しい。
いつかカッターとやらに乗って……
いつの間にか真っ暗だった。
「日の沈まぬ帝国」と共に。