Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


バレンシアの船乗り

陸(オカ)に戻ってから久しい。

今日もバレンシアの港では、ひっきりなしに船が行き交う。

遠くから見てると、羊の群れのようだ。

ネーデルラントでは、カッターなる船も作られたらしい。

地中海のイスパニアじゃあ、未だにキャラベルだ。

あの喫水をもうちょっと浅くして、
舳先を高くして……

って考えているうちに日が暮れてるじゃねえか。

仕方ない。今日はフランシスの家にでもご馳走にあがるか。


バレンシアの港が見渡せるこの高台では、

「羊」の群れが今日も行き交う。

羊飼いは羊にまたがって……

考えてるうちに太陽が沈んできている。


日の沈まぬ帝国とはよく言ったものだが、

イングランドに負けて以来

イスパニアは上がったりだった。

砂糖が来ねぇ、カカオが来ねぇだの

連日難破やら遭難やらで

船乗り生命も上がったりだった。

もっとも、アフリカのどっかに連行されて生きてるかもしれない。

そう思うのが、「船乗り」の間での合言葉のようになっていた。

陸暮らしは悪くない。

もっとも、稼ぎ口があればいいのだ。

もう船では雇われっこない。

毛頭、そのつもりもないが。

いまではすっかり陸が板に付いて、
陸暮らし“サン・アンドロ”の農家なんて言われている。

もっとも、知ったこっちゃねぇが。

イスパニアがアメリカから運んできたもの。

疫病だとか、タバコだとか

もっぱら噂にはなったらしい。


もっとも、あれ以来
どこも商売上がったりだってのは

聞くところによるのだが。

幸い、上手く切り抜けられた。

だが、海と同じで

この先何があるか分からない。


もう体がなまって久しい。

いつかカッターとやらに乗って……

いつの間にか真っ暗だった。

「日の沈まぬ帝国」と共に。

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