Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


Anastasia

南米大陸からほど近い、沖合2㎞の海上に

密命船「レリー・スタット」は2隻の僚艦とともにたたずんでいた。

ジブセイルが3枚追加された特殊仕様のキャラックで

船舷側にも特殊な補助帆がついている不思議な帆船だった。

2隻の僚艦も、同様に特殊仕様になっている。

航行能力、旋回能力を上げるための改造だった。

この南米のモンスーンのような
風向きの定まらない特殊な気候でも

あまり速度を落とさずに航行できる。

舵の仕事を補助帆がしてしまうのも特徴だ。

この補助帆は、バウ・スプリットと呼ばれており

本来船艦首下につくはずのバウ・スプリットと
わざと同じ呼び名になっていた。

新考案の帆の存在を隠すため、そう呼び名がついていた
のである。

下級水夫や士官の間では、「レリー・スプリット」と
呼ばれていた。

このレリー・スプリットは、

3枚のジブセイル様の小型の補助帆が

それぞればらばらに連動して動く上

風圧でもそれに適応して形を変えるので

レリー・スプリットには

「海獣のえら」という意味も

込められていたようである。


航海長が操作の指示を出す際に、

「レリー、レリー・アップ」

という指示を出すのだから笑い物である。

新型兵器は奇をへつらうとは

よく言われることだが、

航海士本人が進んでそういう呼び方を使うものだから
笑い物である。

「レリー、レリー」の指示に合わせて

水夫がロープを船後方側に引き、

“レリー・スプリット”の位置を引き上げる。

比較的悪天候の時は船舷線より下、

良好の時は帆の下と同じぐらいの高さ

と位置は決まっていたのである。

ネーデルラント総督直属の配下が考案した

このレリー・スプリットは、

気候の知れない未知の海域で操作しやすいように
なっていたのである。

ロープの引きも軽く、

水夫も疲労せずに操作できるのが特徴である。

船左右それぞれを互い違いに操作することで
舵の役割も果たすのだが、

遠洋航海の時はそう転舵することもないので
そのくらいの微調整で事足りるのである。


さて、レリー・スプリットの説明はさておいて

一路は南米へと……。

私は、艦長の副官

ディエゴ・マルケス

28歳だが、一等副官をしている。

艦長はわけあってスウェーデンの提督

“オラニエ・アレク・ウィリアム”

分かりやすいあだ名だが

本名は特別任務とあって隠されていた。


イスパニアの船団に紛れているのだから当然である。

通訳と交渉担当、ほか数人の船員以外全員“外国人”。

船員の半数はネーデルラント人だから笑いものである。

共通語はゲルマン語。イスパニアの船に遭遇しても通じない。

目撃されてもイングランド人だと思われるから無難なのである。


イスパニアの後方僅か1㎞弱をつけて3週間弱。

カリブ海にさしかかったところで船の進路を一路南西に取り、

南米の入植候補地を目指したのである。


イスパニア人に見つかったときの対策はちゃんとある。

入植地はイスパニア人に献上、

開拓だけを請け負う。

船を確認したらできるだけ早く遠くへ逃げる。

金・銀は積んでないので

私掠船を疑われることもない。

大砲も両舷6門の砲以外は隠していた。

というか使わないので船倉の一番奥にしまっているのである。

まぁ、いざとなったらの作戦が「全面降伏」なので
応戦の必要もない。

未開の原住民も空砲一発で逃げるので問題なし、と……。


金・銀は積んでないと言ったが、

艦長のヘソクリは別である。

入植地で揉めたらカネで解決っちゅうわけだ。


まぁ、一般市民が半年に使う額と同じだけ持ってるから

心配はないのだけれど……。


いかんせん霧が濃い……。

陸までもうわずかだってのに、

人影もかがり火も見えやしねぇ。


南米にはまだどこも入植してないはずだが、

上陸できないと

どうやりくりするんだか……。

食料はあと13日分を切ってる。





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