Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


Anastasia:Ⅱ

2日目―――

船員がハンガー・セイル

(レリー・スプリットの後ろにある小さめの帆)の手入れを

終えたころ、

ようやく岸に上がるための船の準備が整った。

艦長がGO サインを出す。

艦長(実はもどき)以下数人の水夫が

岸に向かってゆっくりと漕ぎ出す。

こちら側は同様の船を他にも2隻出していた。


むこう側からも、何隻かの“カヤック”とおぼしき
漁船のような船が

ちょうど岸とこちら側の中間地点に向かって
漕ぎ出していた。

よく見ると岸はかなり浅瀬のようである。

「レリー・スタット」以下2隻の僚艦は、

喫水が浅いので問題はないが

浅瀬のぎりぎりのラインまで船を寄せていたようである。

よく考えたら、どうりで航海中の喫水線よりも水が低かったわけである。

沿岸から押し寄せる小さな波が、僚艦「オラニエ・ウィレム」の船舷側船体に
当たって砕けていた。

遠浅なので沿岸からの波が船体を押し上げているのだった。

もう一方の僚艦「アヌビス・クシャトリス」の船員が、

転覆を恐れてこちらと「オラニエ・ウィレム」に
ロープの束を投げてよこす。

戦闘ならやっちゃいけないご法度だが、

見知らぬ土地の洋上の上、

他の船もないから「虎穴に入る」という感じだ。

「アヌビス」の船員が釣り糸を垂れているのが見えたが
食事でも足りないのだろうか。

見知らぬ土地でよくやるよ……といまさらながらにそう思った。

3隻の船団の船員は、「レリー・スタット」が68人。

「オラニエ」が56人で「アヌビス」は38人乗りだった。

3隻ともほぼ同型のキャラックだったが、

「アヌビス」だけは緊急時の離脱用に軽く作られていた。

脱出時に乗り移れるように、船員も少ないのである。

もっとも、全員乗れるのかどうかは定かではないが……。


今回の船団の任務は、イスパニアに隠れて南米で基地を築くこと。

イスパニアはカリブに忙しく、

いまさら中米にさしかかったというのだから

南米のラインは堅い。

まだ誰も入植していないはるか南米だから

邪魔されずに入植できるというわけだ。


極秘に入植するものだから、

現地での略奪・占領は一切認められていない。

原住民に金品を渡して、土地を借りろというのが

オラニエ公直々の「指令」だった。


この3隻の船の食料はあと数日ももたない。

食品庫係りも気まずそうである。

なにより、自分がパクッたと思われてはただ事では済まないからな……。

船員に気を配るのは、航海士官の仕事なので

副官の私はぼんやり海を眺めていても大丈夫だった。


少し離れたところでは、原住民とのやりとりが進んでいた……。

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