Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


ノルマンディシナ

チェーホフは座り込んでタバコを吸っていた。

あちらのほうでは、民会をやっている。

このクソ寒いウクライナの国境というのに、

住民はのんきにタバコを吸いながら民会をしている。

「クソッ!」

チェーホフが不意に吐き捨てた。

「どうしたんだ」

俺は聞いた。

「いや。べつに」

チェーホフは不満げだった。

「なぁ、カファロフ」

チェーホフは言った。

「ん?どうした」

俺は答える。

このクソ寒いウクライナの冬だというのに、

チェーホフの頬は紅潮していた。

「なにかあったのか?」

俺は聞く。

「なぁ、前線で8か月だぜ」

チェーホフはもはや愚痴をもらしていた。

「クソか、お前は」

言い返してやった。

「なぁ、聞いてくれよ……」

チェーホフはなおも続ける。

「おい、酒飲み過ぎたんじゃないか。

具合悪いのか?」

聞いてやった。


「いや、知ってるだろ。

飲んでない。大丈夫」

チェーホフは酔っているようだった。

だが、どうみても寒さのせいで

飲み物とかのせいではない。

俺はチェーホフを揺すった。

「おい、しっかりしろ。寝るなよ」

チェーホフは今にも倒れそうだった。


遠くではまだ民会をやっている。

兵士なんか知らんぷりだ。

ああいうのはむかつく。

「ったく、あれは目障りだ」

ふと上官が寄ってきて、今の言葉を聞いたようで

「上の者に言ってあれはどけさせよう」

と言う。

俺は、

「いや、それはやりすぎでは」

と言ったが、

上官は、

「なあに。心配いらん。すぐに終わる」

と言ったきり、向こうに足早に歩き去った。

と同時に、憲兵と警備管理の士官が出てきたのが見えた。

まぁ、俺には関係ない。

チェーホフを揺すりつつ、こいつを担いで
基地に戻ろうかと考えていた。

どうなるかは分からん。

寒さでさっきの上官の頬まで紅潮しているのが見えた。

あれは危険信号だ。

寒さで紅潮は。

幸い、飲んだウイスキーで体温は大丈夫だったが……

「ゲフッ、ゲフッ」

チフスか、結核か。

「……うつす……なよ」

チェーホフがかすれた声で言った。

「なあに、お前よりは大丈夫」

「ったく……」チェーホフが合いの手を打つ。


このウクライナの国境では、今日も寒さに凍えて死ぬ人が
続出した。

ロシア政府が衣料などの輸出を止めたためである。

前線の兵士も他人事ではない。

ライフルが先か、俺が先か……。

冷たい撃鉄は今日も凍り、

そして狙われる敵は……。

なぁんて、撃ったことも……聞いたことも……ないがな。

そして撃たれ……ゲフッ……こともない。ゲフッ。

風邪か。

チェーホフがいまいましい。

倒れてるのに、風邪をひいてないなんて。

おいおい。

今何時だよ。

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