Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


リリー&ジョージ農園物語Ⅱ

ジョージは帰る道すがら、

こんな歌を歌っていた。

「日はまた昇る~

そして日はまた沈む~

これから見る先の景色は~

あなたにはどう映る~」


「ねぇ、どういう意味?」

私は聞いた。

「やぁ、リリー。

この歌の意味は……」

年増のおじさんか。

まだ25だというのに、

すっかり農場暮らしに馴染んでいた。

馬も聞き辛そうだ。あまりかわいそうなことは

しないでほしい。

「そして日はまた昇るのさ~

農場の夜は明けて~」

子供の歌か。

ほんとうにしょうもない人だと、

つくづく思った。

「やぁ、リリー。

今日の天気はどうなると思う?」

「晴れじゃないかしら。

星も見えてるし」

私は答えた。

「じゃぁ、北極星がかすんで見えるのは

なぜかな~?」

「知らないわ」

私はまた答える。

「雨になるからだよ」

「へ~」

私は相槌を打つ。

「地平線がかすむときは、

雨なのさ。

ウェールズのおばあちゃんが、

そう教えてくれたのさ」

「へ~」

私は答える。

「北極星がかすんだら、雨か……」

この人の言うことは、おもしろい。

なんでもかんでも当たっているわけではないが、

なんとなく当たっているのである。

まぁ、かすめば雨なんて

誰にでも予想できる問題だ。

晴れたら雨なんて、あまり聞いたことがない。

もちろん、そういう学説もあるだろうが。

この人の話に耳を傾けることにした。

「地平線がかすむときは、雨。

月がかすむときも、雨だな。

あと夕方完全に晴れずに、

妙に色付くときも雨だな」

まぁ、この人はイギリス人だ。

こんなの知ってて当然かもしれない。

テレビの時は、うるさくないのに

いつもこうして2人で歩いていると

こうだった。

馬車だったら、寄りかかりたいところだが

今は違う。

私どころか、馬まで転倒してしまう。

このぬかるんで窪んだ道。

2人、2頭並んで歩いてなければ

泥がかかってしまう道。

この道の先に、たどり着き見えるものは

あるのだろうか。

心の中では、彼にもたれかかりつつ

馬の上で、船を漕いだ。

馬が跳ね返りの重みで、重そうである。

蠅が回りを飛んでいたが、

私には気にならなかった。

馬がピンと耳をそばだてる。

馬という生き物は敏感だ。

なんにしてもそう。ちょっと音がしただけでも

すぐに敏感になる。

耳はきれいだった。

古代から、ずっと人間に飼われてきた馬。

今もこうして、乗られている。

いや、乗せてくれている

といったほうが正しいかもしれない。

馬は不思議だ。

いい乗り手には愛想をよくする。

乗られているのに、不思議である。

いつまで乗られるのかも、わからないのに。

悪い乗り手は、とっとと落としてしまえばいい。

ちなみにいい馬ほど、落しかたが上手だった。

この前も素行の悪い近所の子供が

馬に乗ろうとしたらしいが(この馬ではなく、違う馬)

振り落とされたらしい。

しかも、けがひとつせずに。

うちの馬は、みんないい馬だ。

本当は人間に飼われていることを

嫌っているかもしれない。

どう思ってるか分からないところは

人間と同じだった。

どう思っていてもいい。

ただ、馬という生き物は

誇りを重んじる。

人間を乗せるだけでも、

信頼して乗せるのだ。 

ただ乗せるだけとは違う。

馬という生き物にも誇りがある。

信頼できる人間なら乗せていい。

信頼できない人間は落とす。

そういう分別がない馬は、生きて行けない。

このジョシュア(馬の名前)は

そう言っているようだった。

いや、正確には

あのときそう言っているようだった。

馬は不思議だ。

しゃべれなくても、何かを訴えかけてくる。

それに答えるのが、我々農場主の役目。

古代よりそうだったのかもしれない。

馬に乗るようになったのは、いつからだったかは

しらない。

だが、馬に乗り始めてからはそう

人間はそうしてきた。

馬と話す道を選んだのだ。

今はこう、話せない。

馬は人を乗せるのに必死。

馬のDNAが、人を乗せるように

できているかは分からない。

だが、これだけははっきりしている。

これだけは言える。

馬は人間の相棒だ。

あるいは、人間は馬の相棒かもしれない。

まぁ、どっちでもいいことだが

共に共連れなのだ。

悪いことは言わない。

「ねー。そうだよね~」

馬は相変わらず聞かないふりだ。

「お友達だよね~」

「なに、言ってるんだ」

「内緒」

まぁ、こういうこともアリなのだ。

ぬかるんだ道から、乾いた道へと……。

窪んだ道を歩く音が、コポッコポッ

と響く。

馬は不機嫌そうだったが。

たてがみを撫でるとすぐに機嫌が戻った。

とはいえ、馬は不機嫌な生き物である。

ちょっとでも機嫌が悪くなると、

すぐ無愛想になる。

私の父に似ていた。

ジョージもそうかもしれない。

ひょっとしたら、怒らすと不機嫌になるかも。

試してみたかったが、馬の上ケンカするわけにもいかない。

転倒したあげくに、馬に蹴られたくはなかった。

あぶみに乗っかって、片足立ちしたかったが

ジョージに片手で制されたのでやめた。

口笛を吹きたかったが。

ジョシュアは口笛が苦手。

ジョージが口笛を吹くと、

すぐに寄っていくが

あまり上機嫌ではない。

その代り、いざというときは

すぐに飛んでいく。

もちろん、そのときも不機嫌だ。

ただ、何もないときに口笛を吹くと

怒る。

馬といえど、感情はある。

こうして帰り道は、怒らせないように

たてがみを撫でながら

帰るのだ。

あ、そういえば

馬を洗って馬に乗らずに帰る

感謝デーをまだしてない。

もちろん、覚えてはいたが

ジョージも及び腰だし

忘れていたのだ。

今度やろうかな。

そう思い、農場への道を進んでいくのだった。





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