Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


迷い羊

「はい、出来ました」

彼は言う。

言えばなんでもやってくれる。

だが、それもお手伝いの範囲だ。

「こういう天気の日は、紅茶は2分ぐらいが

ベストなのですよ。

あまり長いと、気分が廃れます」

上品だな。

彼はいつもそうだ。

こういうセリフも、かなりおどけているのだ。

外見では分からないが、彼はそういうやつ。

私は包丁で野菜を切るだけ。

後は彼が全部やってくれる。

これが共同作業というのだから
笑いものだ。

「明日はケーキにしますか?」

彼が不意に笑って言う。

その、何とも言えない笑顔が

私は許せないのだ。

いや、心では許している。

だが、それをおおやけに許してしまうと

私が壊れそうなのだ。

「あははっっ」

私は笑いで壊れそうになる。

しかも、涙まで出して。

どうなんだろうな。こんな関係。

他の人に絶対笑われる。

だが、彼は言う。

「そういう笑いも悪くないですよ。

こういうのも人生なのです。

由香様本人が笑っていればいいのです。

こういうのも、悪くないですよ」

彼は決まってこういうのです。

しかも、笑いを噛み殺しながら。

どうなんだろうな、こういうの。

どうなんでしょうか。こういう関係。

いけないのかな。





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