Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


プロメテウスⅡ

建物には血痕がなかった。
爆撃のときはおそらく誰もいなかったか、
建物の外だったのだろう。

半ポンド“誘導爆弾”で破壊された
この建物の屋根は、

くっきり10㎝円の穴が空いていた。
秘密作戦用の、精密誘導爆弾である。

UAV“無人偵察機”から投下される。

空爆された建物とデコイするために、
爆弾を投下されたとも言われているが

正確には使われないように
爆撃したといったほうがいいのだろう。

予算を絞りたいので
実験代わりに試験中の爆弾を投下
したというわけだ。

壊れ具合は後で報告する必要があるだろう。
もちろん、地区を制圧した後で
他の兵士がやってくれれば

それで済むことなのだが。

建物には手すりがなかったが、
壁伝いに二階へたどり着く。

建物の前の道路では、
武装組織の一員とみられる
男が

のん気に誰かと話していた。

「おい、一人そっちへいったぞ」―
見張りをしている
シールズから無線が入った。

「見えてる。二人だ」
AK銃を手にぶら下げた
野球帽の武装組織の兵士が、

向こうのほうを指差して
なにやら仲間と会話している。

「おしゃべり中だな」
すぐ後ろ「地下」で見張っている
隊員がボソッと言った。

地下でも声が聞こえるらしい。
音を出したらバレるのに、
音が聞こえても我慢しなきゃならないのは

潜入特有だった。

「あと15分しかないぞ」
無線で隊長が告げた。

足早にかがみ気味で机に向かい、
上に置いてあった書類と
鍵をサイドバックに放り込んだ。

スパイ用の車の鍵である。
取りに帰ってくる頃には、
ここは友軍でいっぱいになる。

逃走の罪は重いぞ―――。
一人でにそう思った。

実際は逃げたことになっているが、
おそらくは“巻き込まれた”のだろう。

外部工作員は逃げることが
暗黙で認められていた。

もちろん、表向きも書類上も
“裏切り”と表現される。

少なくとも、自由の国“アメリカ”には
堂々と入国できなくなる。

中南米と東欧の社会主義国は
そういった外れもののたまり場である。

それを知ってか知らずしてか、
目の前の引き出しにはロシアマフィアの
筆跡とおぼしき
武器帳簿があった。

おそらく、こいつを追ってたんだろう。
こりゃ、キナ臭いな。

ロシアマフィアは戦争には事欠かない。
勿論、これは巨大戦争ビジネスの一角だ。

騒がしいことが起これば、
裏では順調だ。

白人対有色人種の戦いは、
こうして演出されているのである。

その帳簿を持って帰るかためらったが、
すばやくサイドバックに放り込んだ。

机にはこれだけだったが、
あとは周りに銃が隠されてないか
探した。

「あと1分だけだ」―

“後ろの”隊員が告げた。

彼はおそらくずっと時計とにらめっこ
しているのだろう。

その面を故郷の家族に見せてやれるように、
早く切り上げなきゃな。

部屋を爆破するか考えたが、
制圧前に騒ぎを起こすのはよくない。

手早く切り上げることにした。

足音を立てないように、
足早にかがんで部屋を出る。

近くでは戦闘機の飛行音がしていた。
攻撃前の偵察である。

表では遠くから
友軍ジープの音がしていた。

もうすぐ制圧である。

表の武装組織の青年二人は、
車の陰でなにやら話し込んでいるようだった。





Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.