Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


ファルケンスヴァールトの犬

「おじいさん、

今度はファルケンスヴァールトの
教会に行こう!」

「なぁに、アムステルダムで
十分ではないか」

「でも、あそこに仲良しの犬が
いるんだよ。

ラッシュもさみしそうだし、
会わせてあげないと」

「そうだな、じゃぁ、そうするか」

「よし。決まり!」

ロンは13歳の少年だった。

そして私の主人は
リンズバーグ氏。

そう、ロン・ジェラルド・
リンズバーグは

私の遊び相手だった。

ロンお坊ちゃまは
もう13歳でいい歳の
少年だった。

私はここにきてかれこれ
3年になる。

自分が何歳だかは
知ったこっちゃない。

だが、ロン君はいつも
5歳だよ。と言い聞かせる。

もっとも、人間にとって都合のいい
年齢で構わない。

私はただ、おもしろければ
それでいいのだ。

レオン・ボナパルド・リンズバーグ氏が
お帰りだ。

リンズバーグの主人は
ロンの父親、

そして私の父親のようなものである。

本当は街郊外の教会の牧師さん
のところで生まれたが、

わけあってリンズバーグ氏に
引き取られた。

もちろん、

牧師のシェラルド氏は元の主人で、

機械技師のリンズバーグ氏は
第二の父親だ。

私の父親の記憶はごくごく薄い。

シェラルド氏の邸宅で飼われてはいたが、

第一次大戦で軍に借り出されて
そのまま行方知れずになった。

犬に勲章はないが、
そのままはぐれたか

戦死だった、とのことだろう。

犬は人間とは違って
個体差の絆は浅いが、

人間のご都合で飼われるのだから
ある程度の不平は仕方ない。

だが、先日
シェラルド氏がリンズバーグ邸に
やってきて、

「ラッシュのことだが、
ジョーイが見つかったよ」

と告げた。

急な知らせではあったが、

犬にしてみれば
父親のことなど関係ない。

人間は長い暮らしで
親と馴れあうことを身につけたが、

動物の世界では
関係ないのだ。

親離れは、野生の宿命でもある。

それができなければ、
一生同じところ暮らしだ。

それではちょっと退屈に思う。


そういえば、今日は土曜日だ。

おそらくレオン氏もお休みだろうし、
ひさびさにファルケンスの教会に
お散歩かな。

あそこへは、
馬に乗っていく。

私は馬車の荷台だ。

人間が乗るわけじゃないから、
犬と荷物が乗るだけの荷台だ。

馬車といっても、二頭の馬で引く。

ロンお坊ちゃまはレオン氏の前に

もう一方の馬は、私を引く。
ちなみに、乗るのはシェラルド氏だ。

一行を乗せた馬は、

アムステルダムを離れ

半日かけてファルケンスヴァールトまで行く。

途中日差しから
にわか雨へと変わったが、

ちゃんと日よけがついていたので
私はそれで雨宿りできた。

一行はずぶ濡れになったが
向こうに着くころには晴れているだろう。


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途中、屋台で
牛肉とズッキーニの串焼きを買って
座って食べた。

私には持ってきたチーズとパンの端くれ。
人間と食べ物が違うのはいいことだ。

同じにならずに済む。

ロンお坊ちゃまは、
食べたいきおいで
眠そうだった。

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ファルケンスヴァールトの教会は、
古い教会だ。

今回行くのは有名なそっちの教会では
なく、

街のちょっと外れにある
街に入ってすぐの

教会だ。

比較的新しいこの教会は
郊外からやってきた人が
よく利用する。

馬車使いの駅代わりや
屋台の店主が場所を構えるのに

有用だった。

そこで荷を降ろし、

一行は教会へ向かった。

私はロン坊やに引っ張られて
教会の入り口へと向かう。

「着いたよ、ラッシュ」
坊やがそう言ったのが
聞こえた。

シェラルド氏は奥のベンチに
座っていた

老夫婦とその孫と思われる子供に、
紳士帽をとって挨拶した。

子供が大げさに挨拶しかえす。
確か二人いる。

あとで女の子のほうが顔を出した。
男と女、二人だ。

ぼんやりとは覚えている。

なんとなく、見たことのある感じの
夫婦だ。

どっかで見たな。

シェラルド氏が、
私を手招きする。

手招きだけじゃ
行く気にもならなかったので、

仕方なくロンが段差の上のベンチまで
私を引っ張っていった。

「お手柔らかにしてやれ、ロン」
レオン・リンズバーグ氏がたしなめた。

「はぁい」
ロンは10歳そこそこの子供らしく
答える。

私は老夫婦の
顔を見上げた。

その顔に見覚えはなかったが、
すぐおばあさんのほうが

見慣れた親父を紹介してくれた。

そう、どこかで見た、
在りし日の父親である。

もちろん、犬だ。

ロンは感動でべそをかいているが、

私には実感がなかった。

とりあえず、犬“式”の挨拶をしておく。

鼻の匂いで父親だと分かったが、
こっちは無言のやりとりである。

父親は牧師一家の家で育ったため、
人間の言葉というよりコーラスを理解していた。

だが、これだけ老けてるし
人間の言葉は通じないだろう。

というか、犬が人間の言葉を理解しても
犬同士では使えない。

相変わらず、匂いの嗅ぎ合いが続いた。

ロン坊やは、
相変わらずはしゃいでいる。

頭上を、戦闘機が2機、そしてもう一機と
通過した。

よく見ると、
シェラルド氏が紹介した老夫婦は勲章を
持っている。

「息子のものだ」

老夫婦のおじいさんのほうは言った。

相変わらず、父親は誇らしげだった。


「やつは、今も軍だよ」

「なるほど、戦死されたので?」

「いや、そうじゃない

軍から帰ってこないんだ。
死んだものだと思っているよ」

「なるほど、じゃあ健在なのですね」

「そうだといいが」

シェラルド氏は
老夫婦の男性のほうと
会話を終えると、

私の父親を前に出して、

ロンに別れを告げた。

「それでは、お元気で」

「会えてよかったです」
リンズバーグ氏は告げた。

「じゃぁな、ハロルドさんよ」
シェラルド氏は、

老夫婦に別れを告げた。

アバター
2013/07/06 06:04
なるほど、考えてみますb

コメントありがとうございますb
アバター
2013/07/06 01:06
コメが遅くなりました瀬里です。

童話チックな内容ですね
フランダースの犬みたいな犬の忠誠心とか主人に対する信頼のようなものが見てとれますね。
このワンちゃんはかなり賢いぞ(笑)
そこに持ってきて、内容が・・・
人間の会話の方のちょっとしんみり来る台詞が・・・
今度はこのシェラルド氏とその息子の再開話が気になるところです。




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