Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


ガンズ・アンド・ローゼズ 1

ドーン―――。

早朝の銀行に、爆発音が響いた。

武装強盗が、手榴弾を入口の近くで
爆発させたのだ。

ジョンは、盾に隠れながら
「うっひょー」
と言った。

私は無線でこう問いかける。
「―こちらアルファ66。

武装強盗は手榴弾を使った。
狙撃部隊に至急狙撃を要求する」

「―おい、撃てっこないぞ」
後ろで狙撃部隊と同じ場所にいた。

デヴィットが言った。
彼は狙撃部隊の「お供」をさせられている。

マスクを被った狙撃部隊の一員が、
デヴィットから双眼鏡をひったくった。

「―ったく。よく見ろ。

隙間から肩撃てるだろうが」

そのマスクから目を覗かせた
狙撃兵が言った。

デヴィットは、
「―人質がいたらどうするよ。
あんたらの腕前でも無理だ。

アサルトチーム要求しようぜ」

と言った。

SWATを指示する
マクミラン巡査長は、

「―物陰に隠れて動くな。

交渉が始まるまで待機だ。

やつらは手榴弾こそ投げたが
動かない。

投降か脱出を狙ってるんだろう。

―交渉が決裂したら、
アサルトチームを送り込む。

人質がいなければ、
全員撃って構わない オーバー」

と言った。

デヴィットは、

「おいおい。冗談きついぜ
朝からテロリストを皆殺しってか。

軍にお願いすりゃいいじゃねえか、
そんな事」

と言った。

「私たちが軍なの。LAでは」
私は言った。

「んじゃ、突撃準備だ」
ジョンは言った。

彼がポイントマンである。

特殊部隊とは違って、
ポイントマンがすべて指示を出す。

一応指揮官は後ろについて回るが、
なぜかジョンの指示がいつも的確なので

実質ワンマンポインターだった。

もっとも、“ポイントマンが指揮官を兼ねているわけではなく”、
“指揮官がポイントマンを兼ねて”いた。

LAにしかないアサルトチームのよくある日常だった。
テロリストはポイントマンの後ろにいる奴が
指揮官だと思ってるから、

大抵そのポイントマンの「護衛役」には
元デルタフォース“自称”のグリッチャーが

高速連射改造をした
M416(軍の最新装備だ)を装備して

撃ってきた奴に撃ち返す。

もっとも、M416とは違って
グリッチャーはお茶目で穏やかなジョーク好きだ。

例えるならM249軽機関銃だが
彼曰く戦場では“モホーク族”だったらしい。

灰色のフェイスペイントの塗り方と、
サングラスを付けてよく任務中突っ立っていることから

そう呼ばれていた、らしい。

「おい、クリス。

何突っ立ってやがる」
ジョンは私に突っ込んだ。

「何って、見てるだけよ」
私は車のドアの盾に
もう一枚防弾盾を立て掛けて
その隙間から銀行の入り口を眺めていた。

マクミラン巡査長は、
「交渉人が遅いな。

こりゃ、撤収かもな。
今日は整理ついてるけど、

交通整理してなきゃ
今頃大惨事だな」
と言った。

「“パパー。AK持ったテロリストがいるよー”」
ジョンが子供の口真似をしていった。

「―LAのおまわ……げふっ」
デヴィットが“覆面”狙撃手に
小突かれているのが見えた。

「―あのな。こいつら凶暴でかなわん」
デヴィットは言った。

「そのうち仲良くなれるかもよ」
私は無線機を通して言った。

「―片付けるのはあんたらじゃない。

俺ら狙撃手だ」
覆面狙撃手にデヴィットは説教されている
ようだった。

「―うるさくてかなわん。お遊びは
ロッカーでやってろ」
覆面狙撃“隊”は完全に主導権を握っている、
ように思えた。

「巡査、防弾チョッキちゃんと着てます?」
私はマクミランに聞いた。

「薄いかもしれないけど、
俺は指揮車両の……」
そう言いかけたとたん、
テロリストが撃った小銃の弾が
指揮車両のドアに直撃し、

マクミランの頬をかすめて
指揮車両に刺さった。

「畜生、撃ち返せ!」
マクミランは珍しく怒鳴ったが、
あいにく無線のスイッチを押し忘れて
全隊には命令は行き届いていなかった。

「―了解、二人仕留めたぞ」
狙撃チームは返事を聞く間もなく

数十連射してテロリストに反撃した。

「―やりすぎよ」
私は無線で彼らに言った。

「―仕方ありません。撃ってきたんだから」
狙撃チームの一人、マイク・バシェットが小声で
“後ろから”言った。

銀行の向こうから、
かすかに悲鳴が聞こえ、

テロリストの一人がまた入口付近に
手榴弾を一発投げた。

「爆発するぞ!」
「退避!!」

SWATと警官は一斉に物陰に隠れた。
そう言う間もなく、

狙撃隊はまた手榴弾を投げた男の
手を撃った。

手榴弾は爆発し、
男が破片を浴びたとみえて
悲鳴を上げて泣き叫ぶのが見えた。

「撃ち方やめ!撃ち方やめ!」
マクミランが無線に向かって叫んだ。

「―あともう少しです。仕留めてしまいやしょう」
後ろの狙撃チームは言った。

「どうしていつもこんなことに」
私はため息まじりに言った。

「知らねえよ。カワイコちゃんは後ろで
引っ込んでな」
ジョンは私に向かって斜め口で言った。

「失礼ね!」
私は相変わらずドアの窓と防弾盾の
のぞき穴の隙間から言った。

「遊んでる場合か!」
マクミランは怒って言った。

「マクミランさん、手当しますよ」
後ろで待機していた救護班が
ガーゼとタオルをもって手当に駆け付けたようだった。

「車のなかにしよう」
マクミランはとぼとぼ車に引きさがった。

「隊長、そろそろ制圧しましょう。
突入しないと」
ジョンの後ろで控えていた
バーズが言った。

「規則では、もうとっくに突入しているべきです」
バーズは付け加えた。

「知らないのか。LA.SWATの最重要目標は、
民間の安全確保だ。俺らの安全はどうでもいい」
ジョンは言った。

たまにはらしいことを言うもんだ。
私は感心した。

また、銃弾が頭上をかすめる。

激しく銃弾の応酬が続き、
ついに最後のテロリストが
胴体に被弾して
手を広げながら倒れた。

「大丈夫、ダムダム弾ですよ」
バーズは言った。

テロリストは防弾ベストを着ているように見えた。
騒々しい一週間の開幕だったが、

結局は“全部”狙撃部隊に片付けられて
“武装銀行強盗とSWATの”銃撃戦は
幕を閉じることになった。

「マクミラン、帰りますよ」
私はマクミランに言った。

「おい、まだ突入してないんだけど」
ジョンは寝ぼけた声で言った。

銀行から武装強盗が
足を引きずりながら2,3人出てきた。

すぐに前にいたSWATに制止され、
負傷したまま地面に取り押さえられた。

後ろでは10台の救急車が
あわただしく準備を進め、

建物の向こう
(銀行の反対側の屋上)では

狙撃チームが引き上げるのが見えた。
「―おい、おれはついてくのか」
デヴィットの細々とした声が無線から
聞こえた。

「一日世話見てもらうといいわ」
私は無線に言ってやった。

「なぁ、あいついつもこうなのか」
バースは聞いた。

「SWATの規則その一。怠け者は
狙撃部隊にお仕置きされる」

ジョンは言った。

「SWATのルールその二。
口答えしたらマクミランに狙われる」
マクミランは頬をタオルで押さえながら
バーズのほうを軽くにらんでいた。

「SWATのルールその三.
負傷者には手荒く」
後ろで話を聞いていた救護班の隊員が
マクミランの頬に消毒付きのガーゼを当てた。





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