Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


幻影の林檎

夏〈ナツ〉は静かに屋上の扉を開け、
たむろしている二人の三年生をシカトし、

またたむろしている2,3人の二年生女子を
シカトし、

先に食事をしている
二人の同級生に追いついた。

ユウトとアヤ。
二人の名前はそう聞こえた。

夏は追いついて、
二人の会話に合流したが……。

アヤと思われる方が、
私を指差してなにやら言っている。

夏は、屋上の室外機のダクトの上に座った
私に目を留め、

「こっちにおいでよ」
と言った。

私は渋々と立ち上がり、
スカートの砂を払って

3人のほうへと向かった。

グランドでは
お昼休みにサッカーに勤しむ
男どもの声が聞こえる。

さっきの三年生の男子は
その試合をみてなにやら笑って、
そして喋っている。

二年生女子の三人組は
その三年生のほうを指して笑っておしゃべり
している。

私を呼んだ夏と二人は
いまや私を入れて
夏と4人組になっていた。

「影にお昼ご飯があるから、
とってこなきゃ」
私は言った。

「それ、もーらい」
アヤは意地悪そうにそう言うと、
私のお弁当を目の前に揺らした。

「あ!」
夏はおかしそうに笑った。

「ちょっと……私のおべんとう……」
私不平そうに言った。

「返してあげる」
アヤは気前良そうだった。

「唐揚げおいしそうだな。俺にも一個くれよ」
ユウトは早くも嗅ぎつけたようだった。

「だめ。あんたのはないし」
私は意地悪そうにそういうと、

「一個あげるからね」
とアヤに言った。

「私、今日いっぱい持ってきたから
アヤとユウトにあげるよ」
夏はユウトのほうを見遣りながら
軽くはずかしそうに言った。

「私は~?」
私の声はシカトされた。

夏は、笑いながら
「栞〈シオリ〉のもあるから
心配しないで~。

まぁ、もっとも持ってるんだろうけど」
と意地悪そうに言った。

「チッ、まぁいいか」
私はつまらなそうに遠慮がちに言った。

「じゃぁ、食べようか。

はい、ユウト」
アヤは足元から弁当箱を二つ取り出すと、

ユウトの分をまるで自分のものであるか
のようにユウトに差し出した。

「はぃはぃ、アヤ“姉さま”。待ってましたよ」
ユウトは辛辣(しんらつ)な声でそう言った。

「じゃぁ、始めましょうか」
ユウトは言った。

アヤがごそごそとセカンドバックから
三人分の飲み物を取り出す。

「あ、私自分のお茶あるから」
夏は遠慮がちに言った。

「大丈夫、三人分あるし」
アヤは意地悪そうに私に目配せした。

「シオリのはあったかどうか、わかんないな」
アヤは“とても”極端に意地悪そうだった。

「いいもん、私のは私のがあるしぃ」
私はそう言うと、
アヤが持っている私の弁当箱の
ちょっと横を指差した。

「私の盗るんじゃないでしょうねぇ」
私はアヤのその足元の缶ジュース
を指差した。

「これ?捨てよっかなー……なーんて」
アヤは笑いながら私のほうに放ってそれを
よこした。

ユウトがそれを空中で掴もうとして慌てて
ベンチから転げ落ちそうになった。

夏は慌ててユウトの体を支える。

「おぉ……悪いわりぃ……助かったわ、夏」
ユウトは慌てて言った。

日の強い6月後半の正午。
高校の屋上は、にぎやかで
いつもより少し輝いているように見えた。

「えへへ……」
夏は笑って、ちょっと照れくさそうだった。

そんな印象の強い、今日の午後。

〈続く〉





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