Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


月の涙

窓際に、
海辺の草が揺れる。

照らした明かりのほのかな
光は、

彼の面影と髪の影を
こっそり映し出しているようだった。

「ねぇ、まだそこを見てるの?」

「さっきから何か動いてるんだ。

ほら、見えない?」
彼はそう言った。

私は窓辺に駆け寄って見る。

「何も見えないじゃない」
そう言って私は彼にキスをした。

「もぐもぐ……」
彼はどさくさにまぎれて何かを言おうと
したようだ。

「あのさ、キスの時ぐらい真剣になれない?」
私は彼に言った。

「ん~。今日のは微妙だった」

「失礼ね」
私はそういうと、彼の頬を撫で去った。

「んじゃ、寝る?」

「まだ、お風呂入ってない」

「あっそ」
私はそっけなく
その窓とは直角の位置にある
窓のカーテンを閉めた。

「今何時?」
彼は聞いた。

「知らない。8時半じゃない?」
私は時計を指差した。

もうすぐ9時になろうとしている。

「じゃ、一緒に寝よ」
彼は唐突にそう言った。

「バカね。その手には乗らないわよ」
私は言い切った。

不意に彼の顔が悲しそうに見えた。
気のせいだったと願いたい。

「あ、それから明日の予定……」
そう言いかけて私は口をつぐんでしまった。

窓の外に猫がいたのだ。
それも、2,3匹。

彼はずっとそれを見ていたのだ。
これでは話が進まない。

「えーっと、その、でしょ」
彼は唐突に言った。

「なによ」
私は素っ気なく言った。

「そう言って、キスしてほしいんじゃないの?」
彼は偉そうに命令した。

「バカね。その手には乗らないんだから」
私はそう言い切ると、

ロフトになっている二階で
ベットの支度を始めた。

「お風呂には入らないの?」
彼は聞いた。

「あんたが入るまでは、
入らないんだから」
私はそう言い切った。

「あっそ、じゃあ入らない」
彼はまた駄々をこねた。

「じゃぁ、勝手にして?」
私は彼に枕を押し付けた。

彼が窓際でむぐむぐ言う。

「このままじゃ、窒息死よ」
私は言った。

「おまわりさん、呼んじゃうぞ~」

「酔ってるの?」
私は言った。

「バカね。あんたってのは」
そういうと、彼をハグした。

愛情が通じたのか、
今度は笑顔になって、

「明日、なにする?」
と聞いた。

明日は休みだ。
そして今日も夜は休み。

これで深々と眠れる。
明日は彼を起こさずに
そっとどこかへ出かけてしまおう。

そう思った。





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