Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


林檎の樹下の、実の生る下の〈読み切り〉

「やぁ、マルティネス」
その男は私に声をかけた。

歳20半ばの、筋肉質なガタイのいい男である。
そばには美女を侍らせていた。

歳10半ばの、うら若き乙女である。

「やぁ、ハビエル。

市場でその女でもひっかけてきたのか?」

「違うよ。書庫さ」
ハビエルはそう答えた。

「わかんないとこ、教えてやったら
ついてきたのさ」

「気をつけろ~、その男は下心満載だぞ」
私はその女に言った。

「そうなのかい?」
その女は聞きかえした。

「そうさ。ハビエルは女ったらしで有名なんだ。

気をつけろ、次はお前かもしれないぞ~」
その女はそれを聞くと慌てて逃げようとした。

「おっとそうはいかねぇ。まだ話終わってねぇじゃねえか」
ハビエルはあわてて手を繋ぎ止めて
その女を引き戻した。

「いくら純恋だっていったって、
むりやり引き戻したんじゃ強姦といっしょだよな~」
俺はハビエルにそう意地悪く言った。
ハビエルはバツが悪そうにその女を放した。

「ありがとう。マルティネスさん」

「いいや、いいんだよ。」

「はい」

「気をつけろ~、軍の男はみんなハビエルみたい
だからな~」

「分かりました~」
その女は快く返事すると、

お茶持ってきますね~と
カフェに引き下がった。

「俺らみたいなやつに、
お茶だとよ」
俺はおもしろおかしく言った。

「いいじゃねぇか、女一人損したんだ。
お茶ぐらい、いただこう」
ハビエルは言った。

「おぉ、ジョンジー」
俺は追加で参加したジョンジーに声をかけた。

彼はだらしなく腰から短銃を
提げている。

「やぁ、カウボーイとでも言いたいんだろ」
ジョンジーはだらしなくそう言った。

「アメリカ野郎か?もうすぐ戦争らしいな」
俺はジョンジーに親しみを込めてそう言った。

「俺は行かねぇぞ。田舎に戻って畑を耕すんだ」

「へぇ~、そうかい」
俺は言った。

「女房とな。2か月前の約束なんだよ。

結婚したら畑耕すって」

「そうか、ジョン・ロック様様だな」
俺はいたずらっぽくそう言った。

「なんだよ。ジョン・ロックって」
ジョンジーは怪訝そうにそう言った。

「しらねぇのか。ロンドンで有名な学者だってよ」
ハビエルは知ったかぶりをして言った。。

「ジョン・ロックはどうでもいい。

重要なのは、この先の話だ」
俺はもったいぶって言った。

「そこの教会へ来いよ。

話がある」
俺はそう言ってジョンジーとハビエルを手招きすると、

他の突っ立ってた二人の衛兵も呼び寄せて
角の教会へ招きよせた。

「神父様、悪く思わねぇでくれよ。

計画のためなんだ。使わせてくれ」
ハビエルはそう合掌して教会の前へ
手を捧げた。

「おぃ、さっきの。お茶教会まで頼む」
俺はそうさっきの娘に告げた。

「はい、わかりました~」
フランス娘は元気よく
返事をした。

「さて、続きを聞かせてもらおうじゃねぇか」
ハビエルは教会へ入りながら言った。

奥には老夫婦がいるだけで、
ジョンジー達の姿を見ると
すごすごと退散した。

「すまないねぇ」
俺は老夫婦に声をかけた。

「なぁに、若いもんの邪魔はいたしませんよ」
その旦那のほうは答えた。

「リンドバーグの企みでさぁ」
ハビエルは景気よくそう言った。

「はて……おもしろうそうじゃな」
その旦那は訝しんでそう言うと、

奥方のほうと
教会を後にした。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

「で、話ってなんだ」
ハビエルは訝しんで聞いた。

「実は、その……」
俺はもったいぶって言った。

「今度のドイツ遠征、

行くか行かないか自由に決めれるらしい」

「ほぉ~」
一同から感心の声があがった。

「おぅ、ありがとよ」
ついてきた衛兵のひとりが
さっきの町娘からお茶を受け取った。

「これ、あんたのか」
衛兵はお茶を一杯すすってよこした。

「あぁ、そうだとも」

お茶は二杯あった。
それが持ってくる精一杯の量だったからだ。

「ハビエル、飲めよ」
俺はハビエルにお茶を勧めた。

「もうちょっともってきましょうか?」
街娘は元気よく聞いた。

「遠慮しとくよ、どうせ代金なんか払えねぇ」

「へ~、そうですか」
街娘は引き下がった。
どうせあと5杯ぐらい持ってくるに違いない。

「俺らがつけとくよ。どうせ知り合いだし」
衛兵のもうひとりが言った。

「ほかのやつから、徴収しとくよ」

「そうか、助かる」

「つけるのは悪い。俺が払うよ」
ハビエルは言った。

「おまえ、お気に入りだからって」
俺はハビエルに突っ込んだ。

「いいがかりだ。紳士ってやつさ」
ハビエルは偉そうに言った。

「この、イギリス野郎め~」
衛兵のひとりはハビエルを小突いた。

「ったくよう」
ハビエルは一人ではしゃいでいるようだった。

「それで、ドイツ遠征サボってどうするんだい」
ハビエルは改めて聞き直した。

「私掠船の話があるんだ」
俺は切り出した。

「ビスケー湾のさ。ドイツの船を襲うんだよ」

「ジャックか。クイーンがいるな」
ハビエルは言った。

「そのクイーンが、フランス海軍提督なんだよ」
俺は続けた。

「へぇ~」
一同は聞き入っている。

「その提督が、数少ない私掠船に
人を集めてるって話だ」

「俺はいこうかな」
ジョンジーが言った。

「田舎で、畑をジャックしてくるんじゃないのか」
ハビエルはふざけて言った。

「俺らには遠そうな話だ。退散するとするか」
衛兵は慌てて来た街娘からお茶を受け取ると、

おいしそうにすすりながら言った。

「ここのお茶がおいしいんでね」
衛兵はそう言った。

「ありがとうございます~」
街娘は愛想良く言った。

「ほぅら、先客はいるもんだぜ」
ジョンジーは意地悪く言った。

「だろぅ、絡むだけ無駄ってもんだ」
俺はハビエルをそう戒めた。

「でな、その港の整備に人が要るって話なんだ」
ハビエルは感心しきりだった。

「で、いくらもらえるんだ」
ハビエルは“首を突っ込ん”だ。

「しらねぇよ。でも陸軍よりは入りがいいって話だ」
俺は話を盛り上げた。

「で、俺と一緒に行くやつ」
ジョンジーが手を挙げた。

「ハビエル、お前は?」
俺はハビエルに聞いた。

「お前が行くなら、俺も」
ハビエルはそう渋々答えた。

「俺も混ぜてくれよ」
さっきの衛兵の一人のほうが
話に混ざってきた。

「さっきのも行くって話だ。

上官が変わって、うんざりしてるらしい」
その衛兵は親指を後ろに向けて
“あいつもさ”という仕草をした。

「それから、あの街娘はあれが
仕事だから、ここに来たらいつでも
相手してくれるそうだ」

「だそうだ」
俺はハビエルに言った。

「娘もいいが、港にはもっと景気のいい
娘どもがいるんだ。

今はそっちのほうが性に合ってるね。
ということだ」
ハビエルは話を締めくくった。

一行はビスケーに向かうことになった。

「荷物をまとめるよ」
ジョンジーは言った。

「私掠するわけじゃないからな」
俺は話をただした。

「また、見習い海兵からかよ~」
ハビエルは自分でもあきれ顔だった。

「いいじゃねぇか、入りもいいんだし。
新興海軍だぞ」
俺はハビエルの襟をただした。

「ちぇっ、せっかく街娘を引っ掛けれそうだったのに」
ハビエルはまだ未練があるようだった。

「あれは、オフィサーの共有物なのさ。

カフェの店員だから、だれも手出しゃしねぇよ」
その衛兵はあきれ顔だった。

「そうかぁ、そだよな」
ハビエルはがっかりしたようだった。

「んじゃ、手続きは任せておいてくれ~」
俺は景気よく言った。

「初めての西部フランスなんだ。

景気よくいこうぜ~」

「俺、実は故郷ボルドーらしいけどな」
ジョンジーがぼそっと言った。

「そうなのか。じゃぁ家族にも会えるな」
俺はジョンジーの肩を叩きながらそう言った。

「あぁ、そうだな」


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2013/07/17 19:48
読んでいただき感謝です✽





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