林檎の樹下の、実の生る下の〈読み切り〉
- カテゴリ:自作小説
- 2013/07/17 09:54:22
「やぁ、マルティネス」
その男は私に声をかけた。
歳20半ばの、筋肉質なガタイのいい男である。
そばには美女を侍らせていた。
歳10半ばの、うら若き乙女である。
「やぁ、ハビエル。
市場でその女でもひっかけてきたのか?」
「違うよ。書庫さ」
ハビエルはそう答えた。
「わかんないとこ、教えてやったら
ついてきたのさ」
「気をつけろ~、その男は下心満載だぞ」
私はその女に言った。
「そうなのかい?」
その女は聞きかえした。
「そうさ。ハビエルは女ったらしで有名なんだ。
気をつけろ、次はお前かもしれないぞ~」
その女はそれを聞くと慌てて逃げようとした。
「おっとそうはいかねぇ。まだ話終わってねぇじゃねえか」
ハビエルはあわてて手を繋ぎ止めて
その女を引き戻した。
「いくら純恋だっていったって、
むりやり引き戻したんじゃ強姦といっしょだよな~」
俺はハビエルにそう意地悪く言った。
ハビエルはバツが悪そうにその女を放した。
「ありがとう。マルティネスさん」
「いいや、いいんだよ。」
「はい」
「気をつけろ~、軍の男はみんなハビエルみたい
だからな~」
「分かりました~」
その女は快く返事すると、
お茶持ってきますね~と
カフェに引き下がった。
「俺らみたいなやつに、
お茶だとよ」
俺はおもしろおかしく言った。
「いいじゃねぇか、女一人損したんだ。
お茶ぐらい、いただこう」
ハビエルは言った。
「おぉ、ジョンジー」
俺は追加で参加したジョンジーに声をかけた。
彼はだらしなく腰から短銃を
提げている。
「やぁ、カウボーイとでも言いたいんだろ」
ジョンジーはだらしなくそう言った。
「アメリカ野郎か?もうすぐ戦争らしいな」
俺はジョンジーに親しみを込めてそう言った。
「俺は行かねぇぞ。田舎に戻って畑を耕すんだ」
「へぇ~、そうかい」
俺は言った。
「女房とな。2か月前の約束なんだよ。
結婚したら畑耕すって」
「そうか、ジョン・ロック様様だな」
俺はいたずらっぽくそう言った。
「なんだよ。ジョン・ロックって」
ジョンジーは怪訝そうにそう言った。
「しらねぇのか。ロンドンで有名な学者だってよ」
ハビエルは知ったかぶりをして言った。。
「ジョン・ロックはどうでもいい。
重要なのは、この先の話だ」
俺はもったいぶって言った。
「そこの教会へ来いよ。
話がある」
俺はそう言ってジョンジーとハビエルを手招きすると、
他の突っ立ってた二人の衛兵も呼び寄せて
角の教会へ招きよせた。
「神父様、悪く思わねぇでくれよ。
計画のためなんだ。使わせてくれ」
ハビエルはそう合掌して教会の前へ
手を捧げた。
「おぃ、さっきの。お茶教会まで頼む」
俺はそうさっきの娘に告げた。
「はい、わかりました~」
フランス娘は元気よく
返事をした。
「さて、続きを聞かせてもらおうじゃねぇか」
ハビエルは教会へ入りながら言った。
奥には老夫婦がいるだけで、
ジョンジー達の姿を見ると
すごすごと退散した。
「すまないねぇ」
俺は老夫婦に声をかけた。
「なぁに、若いもんの邪魔はいたしませんよ」
その旦那のほうは答えた。
「リンドバーグの企みでさぁ」
ハビエルは景気よくそう言った。
「はて……おもしろうそうじゃな」
その旦那は訝しんでそう言うと、
奥方のほうと
教会を後にした。
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「で、話ってなんだ」
ハビエルは訝しんで聞いた。
「実は、その……」
俺はもったいぶって言った。
「今度のドイツ遠征、
行くか行かないか自由に決めれるらしい」
「ほぉ~」
一同から感心の声があがった。
「おぅ、ありがとよ」
ついてきた衛兵のひとりが
さっきの町娘からお茶を受け取った。
「これ、あんたのか」
衛兵はお茶を一杯すすってよこした。
「あぁ、そうだとも」
お茶は二杯あった。
それが持ってくる精一杯の量だったからだ。
「ハビエル、飲めよ」
俺はハビエルにお茶を勧めた。
「もうちょっともってきましょうか?」
街娘は元気よく聞いた。
「遠慮しとくよ、どうせ代金なんか払えねぇ」
「へ~、そうですか」
街娘は引き下がった。
どうせあと5杯ぐらい持ってくるに違いない。
「俺らがつけとくよ。どうせ知り合いだし」
衛兵のもうひとりが言った。
「ほかのやつから、徴収しとくよ」
「そうか、助かる」
「つけるのは悪い。俺が払うよ」
ハビエルは言った。
「おまえ、お気に入りだからって」
俺はハビエルに突っ込んだ。
「いいがかりだ。紳士ってやつさ」
ハビエルは偉そうに言った。
「この、イギリス野郎め~」
衛兵のひとりはハビエルを小突いた。
「ったくよう」
ハビエルは一人ではしゃいでいるようだった。
「それで、ドイツ遠征サボってどうするんだい」
ハビエルは改めて聞き直した。
「私掠船の話があるんだ」
俺は切り出した。
「ビスケー湾のさ。ドイツの船を襲うんだよ」
「ジャックか。クイーンがいるな」
ハビエルは言った。
「そのクイーンが、フランス海軍提督なんだよ」
俺は続けた。
「へぇ~」
一同は聞き入っている。
「その提督が、数少ない私掠船に
人を集めてるって話だ」
「俺はいこうかな」
ジョンジーが言った。
「田舎で、畑をジャックしてくるんじゃないのか」
ハビエルはふざけて言った。
「俺らには遠そうな話だ。退散するとするか」
衛兵は慌てて来た街娘からお茶を受け取ると、
おいしそうにすすりながら言った。
「ここのお茶がおいしいんでね」
衛兵はそう言った。
「ありがとうございます~」
街娘は愛想良く言った。
「ほぅら、先客はいるもんだぜ」
ジョンジーは意地悪く言った。
「だろぅ、絡むだけ無駄ってもんだ」
俺はハビエルをそう戒めた。
「でな、その港の整備に人が要るって話なんだ」
ハビエルは感心しきりだった。
「で、いくらもらえるんだ」
ハビエルは“首を突っ込ん”だ。
「しらねぇよ。でも陸軍よりは入りがいいって話だ」
俺は話を盛り上げた。
「で、俺と一緒に行くやつ」
ジョンジーが手を挙げた。
「ハビエル、お前は?」
俺はハビエルに聞いた。
「お前が行くなら、俺も」
ハビエルはそう渋々答えた。
「俺も混ぜてくれよ」
さっきの衛兵の一人のほうが
話に混ざってきた。
「さっきのも行くって話だ。
上官が変わって、うんざりしてるらしい」
その衛兵は親指を後ろに向けて
“あいつもさ”という仕草をした。
「それから、あの街娘はあれが
仕事だから、ここに来たらいつでも
相手してくれるそうだ」
「だそうだ」
俺はハビエルに言った。
「娘もいいが、港にはもっと景気のいい
娘どもがいるんだ。
今はそっちのほうが性に合ってるね。
ということだ」
ハビエルは話を締めくくった。
一行はビスケーに向かうことになった。
「荷物をまとめるよ」
ジョンジーは言った。
「私掠するわけじゃないからな」
俺は話をただした。
「また、見習い海兵からかよ~」
ハビエルは自分でもあきれ顔だった。
「いいじゃねぇか、入りもいいんだし。
新興海軍だぞ」
俺はハビエルの襟をただした。
「ちぇっ、せっかく街娘を引っ掛けれそうだったのに」
ハビエルはまだ未練があるようだった。
「あれは、オフィサーの共有物なのさ。
カフェの店員だから、だれも手出しゃしねぇよ」
その衛兵はあきれ顔だった。
「そうかぁ、そだよな」
ハビエルはがっかりしたようだった。
「んじゃ、手続きは任せておいてくれ~」
俺は景気よく言った。
「初めての西部フランスなんだ。
景気よくいこうぜ~」
「俺、実は故郷ボルドーらしいけどな」
ジョンジーがぼそっと言った。
「そうなのか。じゃぁ家族にも会えるな」
俺はジョンジーの肩を叩きながらそう言った。
「あぁ、そうだな」
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- Eva
- 2013/07/17 19:48
- 読んでいただき感謝です✽
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