Nicotto Town


つれづれ、ひねもす


【源氏?】クロスオーバー 第九章 青藍童子

「こんな幼い姫に、大人が寄ってたかって……怖かったでしょう」
わたくしが良く叱っておきますから、大丈夫ですよ、と宥めるように撫でられながら、深雪は内心で呟く。

ごめんなさい。私、もう17歳です。


◆◆◆

柔らかな物腰に、隠しきれぬ才覚を感じさせる彼女は九重陰陽助と名乗った。
男性社会の陰陽寮において、数少ない女性の陰陽師である。

常ならぬ妖の気配と物音に様子を見に来たところで、
一糸まとわぬ姿のまま、身に覚えの無い痛みと寒気に震えていた深雪を発見した彼女は、
周囲を囲む赤星会長たちのそっくりさん(?)を一喝し、
「かように不甲斐なき殿方に姫をお任せできませぬ。わたくしが保護します」
と、きりりとした面持ちで言い放ち、颯爽と深雪をあの場から救出した。
その様、実に鮮やかで、思わずときめくくらい男前だった(女性だけど)。

青い唇で震えていた深雪に甲斐甲斐しく小袿を羽織らせ、
体が温まるからと葛と甘草で味付けた薬湯を勧めて、九重は品の良い笑みを浮かべる。

「みゆき様はどちらかの姫かしら」
「えっ? いや、違います! ただの庶民です!」
「こんなに綺麗な髪と手をしてらっしゃるのに?」

そう言う九重の手はあかぎれや薬の痕跡、筆だこで荒れている。
守られるか弱い姫君では無い、第一線で働く女性の手だ。
ついついその手を珍しい物のように見つめてしまった深雪に、ふふっと笑った九重は、
「供も付けずに、このような怖い場所へ来てはなりませぬよ」とたしなめる。
その口調が完全に幼子に対するもので、深雪は項垂れ、重い口を開く。

「あの、私、実は17歳で……」
「え?」

扇で口元を覆って九重は深雪の顔をまじまじと見つめ、
それから彼女の髪に目を留めて痛ましげに目を細めた。

「そうでしたの……ごめんなさいね。お辛かったでしょう」
(あれ? 何かまた誤解が生じてる?!)
「どうか、お気を強くもってくださいまし」
「え、えっと……あの、何か勘違いなさってる気がするんですけど」
「まあ、どうぞお隠しにならないで。ああ、でも墨染めの衣なんてあったかしら……」
「墨染め?! なんで?!」
「……出家なさって、」
「いません!」

幼女疑惑の次は出家疑惑。どうしてこうなった。
深雪はぐったりしながら薬湯を飲み、腹を括る。
この人にはちゃんと打ち明けよう。
初対面だが、きっとこの人は信頼に足る人だ。
語る話は突拍子も無い話に聞こえるだろうが、赤星会長のように、異常事態に動じないだろうという予感がする。
椀をそっと置き、深雪は居住まいを正す。

「九重さん、聞いて頂きたい話があるんです」
信じて頂けるか分かりませんけど、全部本当の話です――。


幻視、幻聴、似ているようで似ていない水鏡のような異世界、そして魂に絡みつく【蛇】。
自分の世界の赤星会長との会話、境を越えて訪れた水鏡の向こうの世界。
ぼんやりとした意識の中で聞いた怨嗟に満ちた女の声。

九重は驚きはしたものの、真剣な面持ちで深雪の話を最後まで聞き、
難しい顔をして考え込む場面はあったものの、
途中途中で言葉に詰まる深雪を励ますように相づちを打ち、
最後は微笑んで「よくぞ、耐えなさいましたね」と深雪の冷たくなって手を両手で包んだ。
その温かさに、ほろりと頬が冷える。
それが自分の涙だと気づいたのはしばらくしてからだった。

「あれ?」

一度気づいてしまえば、緩んだ涙腺は決壊したかのように次々と滴をこぼし、
袿の上に点々とシミを作り出す。

「やだ、なんで」

慌てて目元を拭おうとする深雪の体をふわりと薫陸の匂いが包む。
九重の薫物(たきもの)の香りだと分かったのは、抱きしめられる温度を感じた後だった。
墨痕のある、けれども女性らしい指が深雪の頭をそっと、ゆっくりと撫でる。

しっかり者で、冷静で、頼りになる。
いつでも強気で、明るくて、弱い所なんて無い。

そうやって作ってきた自分の形。私の鎧。

頑ななまでに固いそれが、九重のひと撫でごとに剥がれてゆく。
剥がされてしまえば、残ったのはうずくまって泣いている少女だけだった。


――私は強い (誰かに慰められることなんて、ずっと無かった)

――私は平気 (本当は抱きしめて欲しかった)

――私は大丈夫(大丈夫だって、頑張ったねって、優しく撫でて欲しかった)

――私は×× (名前を呼んで欲しかった)


『深雪ちゃん』


(あなたの手を、取りたかった)

堪えきれなかった嗚咽が喉を叩く。
誰よりも器用で不器用な少女は、九重の腕の中でしばし泣いた。



「戻ってきたか」

九重に連れられて戻ってきた深雪の顔を見て、赤星陰陽寮頭はニッと笑む。

「いい面構えになったじゃないか」
「大丈夫? 痛いところとか無い?」

まつなまろがふわりと寄ってきて問いかけるのに、深雪は笑って「平気」と答える。
泣きはらした目に気づいただろうが、そこに言及する者は誰も居なかった。
代わりに胡乱な目を向けたのは、呼び出した己の神使の腹に顔を埋めていた青藍童子だった。

「異(け)しからぬなりをしおるな」

そう、深雪の着ているのは九重のような袿では無い。
水干、有り体に言えば少年の格好――男装していた。

この世界では深雪の腰までしかない髪は、女性としては異様なものとして浮いてしまう。
そこで発想の転換。
髪を結い、水干を着れば、見目麗しい謎の少年のできあがりだ。

「その格好でどうする気?」

笑んでいるが試すような有白童子の目に、深雪は唇を結ぶ。

「赤星さん、蛇の元は退治するんですか?」
「ああ、アレは放置できぬ。安倍君の卜で場所が分かり次第……」
「私、分かります」
「何?」

未だ繋がっているから。

「私、役に立ちますよ?」

気丈な少女に赤星は驚き、そして、凄みのある笑みを浮かべた。


◆◆◆

庭はかがり火が焚かれ、廊下に灯火が点り、内裏はまるで昼間のような明るさであった。
警護の武士が矢入れを鳴らしながら辺りを巡回し、或いは、かがり火を囲むように数名で立つ。
光の届かぬ夜闇に時折、鳴弦の音が響いた。

詰め所では、交代を待つ武士たちが干した魚と焼いた茸をつまみに酒を飲み、
眠気覚ましの世間話を交わしていた。

中身は下世話な女定めの談義から、最近の都で起こっている怪異譚等々。
そのうち酒が回ったのか、話題は先日参内してきた右大臣のこととなった。

「まこと、右大臣のめでたきことよ」
「まことに」

酒で赤らんだ顔で、彼らは右大臣の素晴らしさを口々に褒めそやす。

あの方が復帰なさってから内裏は活気づいた。
怪異に怖じ気づいて参内を拒否する貴族も多い中、なんと剛胆なことよ。
人手が足らぬという申し出に、快く人員を貸し出してくれたそうな。
右大臣こそ、まことの忠臣というものだ。

やんやと手を打ち囃す彼らの様子に、干し魚を囓っていた武士は眉を寄せる。

ここ数日で右大臣の権勢がぐっと盛り返して来つつあるのは彼も感じていた。
各所に手を回し、滞っていた仕事が回るようにした大臣の功績は衛士にも及んでいる。
以前は居丈高であったと聞くが、今日も宿直の彼らの所へ肴を差し入れてくれるなど、
病を境に人が丸くなったと専らの噂だ。

だが、この熱狂ぶりはいささか度が過ぎるのでは無いか。
ぼりぼりと干し魚の骨を噛むその肩を別の男が叩いて「お前も食え」と焼いた茸を勧める。
目上の男の勧めを断ることも出来ず、彼は差し入れられた茸を口にし、
これは旨いと笑み崩れる。

(こんな旨い物をくださる右大臣はやはり優れたお人だ)


盛り上がる彼らの物陰で、ぴーと何かが鳴く声がした。

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2018/04/28 19:01
すごい !! さすが藍色さんだ (〃▽〃)
あの赤星の、クリスタル氏の暴走を、よくぞこんなまとも真っ当な方向に軌道修正したw
すげーーーーーっ !!!

そして深雪がカッコいい (*≧m≦*) ぷぷっ
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2017/11/27 22:43
本日をもって平安クロスオーバーは完結した
おめでとう!
お疲れさん♪
みんな筆が早いから追いつくのが大変だった
楽しかったよ ありがとう
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2017/11/19 19:43
・七リィさん
キノコ美味しいですよねぇ。エリンギとかマイタケとかしめじとか。

でも幻覚キノコでしたw

・るーしぇさん
なるほど! ごはんは舎利さんか!
いいえー、二人とも好きなキャラクターなので、お借りしちゃいました。

九重さんがChrisさんだとは後で知ったんですけど、ピッタリですよね。
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2017/11/18 23:09
あー
子供?を食べさせてくれたのですねー^^
キノコごはんのごはんは舎利のことなので
両方登場させていただいてありがとうございます<(_ _)>

九重はChrisさんだったんですねー
優しさがまさにピッタリ(・ω・)bグッ
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2017/11/17 23:47
キノコ美味しいよねキノコ…

って 幻覚キノコかよ! ( 'д'⊂彡☆))Д´) スパーン
上手いものは正義 ( ・ㅂ・)و グッ!

男装… (´∀`*)ごくり
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2017/11/17 22:09
・えりはるさん
永人お兄様の活躍は、他の方がきっと描いて下さるでしょう。
乞うご期待!(と、ぶん投げぽーい!)

焼き茸、美味しいと思うんですよねぇ。
網の上で炭焼きされて、ふつふつと水滴が浮かび上がって、
端っこがちょっと焦げたりして……お酒に合うんだろうなぁ。

・永都さん
平晏の深雪さんがロワさんで描かれたので、現代の深雪さんもリンクしてもらいました。

赤星長官が平晏のラストを飾って下さる予定のようですし、
リレーの様子を見つつ……ですかねぇ?

どのキノコだろう? マタンゴ?w 紅茶キノコ?

・エメさん
僕としては内裏で着々と根を張る(物理)なキノコが書きたかっただけなのでw
スルーして如雪を倒して、良しやったー! と、思いきや、
実は内裏には彼が残した禍根が徐々に育ってゆく……って言うのでも良いと思います( ・ㅂ・)و グッ !

・響さん
深雪さんの心の欠片でも拾えていたなら良いんですけどね。
結構どきどきしながら提出したので、そう言って頂けて光栄です。

・Chrisさん
おお、九重さんの人はChrisさんだったのですね。
クリスタルさんの所の話で見かけてから、気になっていたのですよ。
無許可でお借りするような形になってしまい、申し訳ありませんでした。

リレー小説なので、色んな人の文章が読めて面白いですよ。
お時間ある時にでもゆっくりどうぞー。
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2017/11/17 21:54
こんばんは。クリスタルさんからお知らせを頂き寄らせて頂きました。

私自身は当時の企画でコーデだけでの参加だった九重が
このように物語に登場させて頂けて動いてる、というのが大変嬉しいです♪
どうもありがとうございます(^^

物語全体の読み歩きができてない状態ですので
この前のお話なども気になりまして
ゆっくりになりますが、これから皆様の所にも読みにお邪魔できたらと思います(^^
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2017/11/17 21:35
・ロワさん
あの髪の長さで17歳って、尼そぎだと思われるだろうなー、とか
陰陽寮だし、鬘よりも水干のほうが調達しやすそう、とか
そもそも現代っ子の深雪さんに女房装束とか重すぎて動けなくなりそう、とか
赤星さんたちについて歩くには女性だと行動範囲限られるだろうな、とか
諸々の思案により「深雪さん、男装しない?」となりました(o´艸`)

・クリスタルさん
か弱い女の子を水責めの素っ裸で放置した 野郎どもは、九重さんに怒られました(o´艸`)
きっと如意さんの幻覚茸、美味しかったんだろうなぁ…

・みぃさん
茸ご飯にするか最後まで迷いましたが、
衛士の寝ずの番中の酒のつまみにご飯……うーん、となって、
焼き茸にちょっと変えました。

下手に知り合いで無かったのがよかったのでしょうねぇ<九重さんと深雪さん

・ミュミュさん
直前まで蛇+拷問まがいの水責めで体力的にも精神的にも弱ってて、
そこに、初対面の年上のお姉さんに優しくされて、ついポロッと本音が零れた、
って感じの場面だと思います。
今後、おつきあいが続く予定がない相手というのも良かったんじゃないかなぁ。

蛇の元は特に決めてないです。
隠岐内侍でも、如雪でも、平晏深雪さんの蛇でも……お好きなものを!

クライマックスはクリスタルさんが赤星VS如雪を考えているようだけど、
特に無茶ぶりしなければ大丈夫じゃないかなぁ。
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2017/11/17 10:33
深雪の外面と内面のあたり、
ミュミュたんが書いてるんじゃないかと思うくらい
藍色さん理解なさってるんだなぁって驚くやら感心するやらでした。

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2017/11/16 22:01
あぁ 藍色さん、書いてから見せにくるので
まだまだ先なんでーっww
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2017/11/16 22:00
次回、学園の深雪ちゃんは平晏にいるので
どーしたもんやらねーww

永都さんは、平晏の深雪さんに憑いてるへび退治をしてくださるのだろうか?
ちなみに、平晏の深雪さんは現在ご実家にいて、黒鏡君が見舞いに行ってると思うの。
・・・ってそこに学園の深雪ちゃんが男の子のかっこうでこっそり
永人さんについていこうと思ってるのですー。
そしたらへび退治も見られるかと!!!

藍色さんにご相談しようと思っていたのは ラストのラストに
エピローグ書こうと思ってて うーん ここに書いちゃつまんないじゃんねww
どっかに書きますww
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2017/11/16 21:47
次にもキノコくるのですね?
酒の肴に香る焼きキノコ!
男装の深雪ちゃんの活躍が楽しみ❤︎
平安時代のご馳走ってなんだろう
次回は現代編の恋話だねー
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2017/11/16 20:38
あ、前じゃないや、次の、だ(苦笑)
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2017/11/16 19:29
良いですね、書き手が違うとまた見方も変わって来るのが楽しいです。

永人より前の赤星長官で決着付くのでは、と思ったり。
私はフォローの学園編の方が良いのかも、とか考えてます。
この先の展開次第ですけどね。

茸・・・いかん、別の話のキノコが浮かんでしまった(苦笑)
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2017/11/16 11:40
深雪ちゃんの一面が垣間見えて嬉しかったです^^

永人お兄様、活躍しそう…
楽しみです!!!!

きのこ…
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2017/11/16 00:17
藍色さん、お疲れさまでした!!!
深雪ちゃん、服着せてもらって、九重さんに話聞いてもらえて良かったねぇ。
意外とこういう初対面の人の方が本音を出してしまえるのかも。
あ、それで蛇の元はここの深雪さんですよね?
そこは永人さんが退治してくれるのかしら。
ほのめかす程度でバトン渡していいのかしら?
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2017/11/15 23:56
あ。きのこ食べてるw
きのこご飯ぢゃないのか〜♡(。→ˇ艸←)

九重さんの前だと深雪ちゃん可愛いなぁ。
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2017/11/15 23:46
おお九重が登場している!
そろそろこの人に出てもらいたかったから丁度いい!
女性同士ということもあり、胸中を明かす深雪
美童っぷりをもっとじっくり読みたかったような気もするが乙女の恋の行方は本人の筆になるものをまとう!
如意の幻覚キノコが美味そうでヤバい
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2017/11/15 23:21
尼www かもじつけて姫君にする手もなきにしもあらずだが、
美少年のほうが好みだww 綱渡りおつかれさま( ´w`)❤❤❤❤
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2017/11/15 23:14
深雪(学園)
九重陰陽助
赤星陰陽寮頭
永人春告陰陽助
有白童子
青藍童子
露草

右大臣(舎利)
如意

源氏遊び リレー:平晏クロスオーバー
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