Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


フランクフルトのコーヒー

フランクフルトを見渡せる高台の近くで、

男はコーヒーを飲んでいた。

ブランデン博士

彼は学校で教師をしている。

遠くアフリカから運ばれてきたコーヒーを嗜み、

私はそれを傍から眺める。

フランクフルトのこの地で

コーヒーを嗜むなどしゃれこんだものだ。

未だコーヒーの値段は高い。

イギリス、フランスが関税をかけた為だ。

博士や王侯貴族など

一部の者しかコーヒーは飲めない。

もっとも、それに嗜好品的価値があるのかどうかは
微妙なところであるが。

「うまいな、エリザベス」

“博士”はご満悦である。

正直言って、ちょっと笑ってしまった。

このアフリカの嗜好品に馴染むことのどこが
いいのか。

少し離れた席では、髭を生やした男どもが
ビールを囲んで楽しんでいる。

まったく、皮肉な光景。

これだからドイツは……と、言いかけてしまった。

コーヒーの匂いが、ほのかに鼻を誘う。

匂いはいい。

ただ、苦いままでは飲めないのだ。

コーヒーと同じくらい、砂糖は高い。

これまた、列強国の関税である。

植民地競争に負けたしわ寄せが、これとは。

夫の悩ましげな表情を見るのは、今日もつらい。

まあ、微笑ましい光景では
あるのだけれど。

博士は今日も、考える。

最近の科学は、目覚ましいのだ。

もっとも、夫は考古学者である。

薬品のことは、皆目関係ないのだ。

あの……教師の仕事は?


思わず言いかけてしまった。

かくもこの男との生活が大変だとは。

やれやれ、コーヒーのせいでまた愚痴る羽目になってしまった。

聖堂の鐘に、今日もフランクフルトのコーヒーは薫る。





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