Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


【読み切り】ホッフェンハイムの生意気娘

釣り人は今日も海を眺めていた。

釣り糸を垂れながら海の先を見つめている。


 「やぁ、何を考えているんですか?」
私は聞いた。

「ホッフェンハイムの街娘さんじゃねぇですか。
こんなところに、何の用で?」


 「私、ブレーメンさんの様子を見に来たんですよ」


 「釣れたものは、何もありませんぜ。
釣れないといったら、うちの女房でさぁ」


 男は小麦色の髪で短髪ながら、

短く釣り糸をもてあそびながら言った。


 「奥さん?今日も市場で元気そうだったわよ」
私は明るく答えた。

この男、なにか思うところでもあるのだろうか。


 「しかし、今日は海もしけてるなぁ」
男はのん気に言った。


 海のことしか頭にないのだろうか。
奥さんのことは?結婚して何年目なの?

どうして一緒じゃないのかしら。


 「奥さんが連れない理由、分かったわよ」
私は言った。


 「魚が釣れないからじゃない。あなたの態度のせいよ」


 「俺は、魚が連れないからって、共連れまで上手くいかないなんて
考えてないけどな」
男は答えた。


 「それより、ホッフェンハイムの娘さんよ。

最近妙な噂があるぜ」
ブレーメンさんは言った。



 「海から大イカが上がってきて、
人の姿に化けて娘をさらっていくらしいんでさぁ」


 「ほんと?かっこいいの?」
私はうっかりそういう聞き方をした。してしまった。


 「あのな、そういう話じゃないんだぜ。

娘がさらわれるっていう」



 「でも、かっこいいんならいいんじゃない。

私、旦那様がいるとしたらそういうもんだと
思ってるんだけど」



 「まぁ、聞いて下され。

その男、ブルターニュの王家の者にそっくりだそうでさぁ。

なんでも、翌朝見ると近くに馬車もあるそうで。



こりゃ、大イカなんてのは嘘で
ただの娘さらいじゃ……」


ブレーメンさんはそう言いかけた。




すると海から……いや、
岸のほうから、本物のブルターニュの王家の者と
思われる男が歩いてくるではないか。


 「あら、王家にしては意外と美男子なのね」
私は言った。


 「おぉ、これは美女ではないか。

だがしかし、私の目的はこれではなくてな」
男は言った。


 「ブレーメン伯、そろそろ暇の時間でさぁ。
城がお呼びですぜ」
男はブレーメン“さん”に言った。


まさか、王家なわけじゃ……。


 「あいや、すっかり忘れとったわ」
 
急にブレーメンさんは立ち上がると

まっすぐ街の方を見渡した。

「ホッフェンハイムの娘さんよ。

俺は行くときが来たようだ。
うちの嫁を呼んできてはくれないだろうか」

ブレーメンさんはそう言った。


あれ?美男子は?ブレーメンさん、伯爵なの?
何がどうなって……?


ブレーメンさんは、陽気に街のほうへと
釣り竿をほったらかして歩いて行った。



 「ところで、娘さんよ。

城の暮らしに興味はあるかい?」
その男は聞いた。


ブルターニュ伯フランデンブルク……

聞いたことある。ドイツの名家から
ブルターニュ家に移った人だ。


それにしても、どうしてブレーメンさんが……?


 「もし、お城の暮らしに興味があるのなら
招待してやらないこともないけどな」
その男は言った。


 「アシュレイだ」
その男は自己紹介した。


 身の丈私よりちょっと高め
細身だけど筋肉質、

名家育ちなのに鈍そうじゃない……。


 「あ、あの……どちらの家の方で?」

 「フランデン家だ」


やっぱり……思った通りだ。


 「で、興味がおありかな?」
男はキザに聞いた。


いや、興味はない。

多少不便でも、今の暮らしのほうが幸せだ。

ふと、街のほうから男が一人歩いてくる。


 「あちらの方は?」
アシュレイは聞いた。

「ヘイデンよ」
私は自慢げに言った。

「ヘイデン殿。私はアシュ……」
アシュレイは自己紹介しようとしたが、


 「おお、名家の人じゃねぇか」
という声にさえぎられた。

ヘイデン・ブルームバーグ。

私の恋人だ。

「よぉ、リザ」
彼は軽く近寄ってきて、

私の肩を軽く叩いた。


 「どぉ?これで負けたでしょ」
私は言った。


アシュレイは一瞬くやしそうな顔になった。
だが、そうなった気がしただけで


 すぐに

「いやぁ、ヘイデン殿。

ブレーメン伯の様子を見に来たんですよ」
と言った。


 「あぁ、なるほど……」
ヘイデンは一発で理解したようだった。


 「リザ、行くぞ」
ヘイデンはそう言うと、
私を街の方へと引っ張った。

「これはこれは、麗しゅう光景で」
アシュレイは笑って言った。



 悔しい……。まだ何も話してないのに……!

これだから名家の男は……。




―――。

夕闇頃、ヘイデンに聞いた。


 「ねぇ、なんであの時引き離したの?」


 「いや、大したことはないよ。

これを見せたくてさ」

 
目の前には祭りの光景が広がっていた。


 「ねぇ、そういえばブレーメンさんは?」


 「あぁ、出て行ったよ。奥さんを連れてね」
ヘイデンは言った。


あの夫婦……。何かおかしいと思っていた。


それがこんな感じで街を出て行ってしまうなんて。






 名家なんて、嫌いだ。

〈終〉

アバター
2013/08/09 15:25
あくまでも、

「覗きに来た隣人」の設定なのですb
味付けぐらいの存在ですねw
アバター
2013/08/09 14:56
広場から来ました。

アシュレイ、嫌な感じですねw




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