Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


幻影の林檎6

午後4:20―――

帰る道すがら、
アヤはユウトのことや
友達のこと

親のことや
学校のことなんかを話した。

3人とも同じクラスだけど、

ユウトは別のクラス。

一人で寂しくないかな、
とちょっと気になったりするけど

あの子はあの子で強いから。

やや長めの髪に、

まるでラピスラズリかターコイズのような目

長い手足に

彫刻で彫ったような深めの顔。

これでも恋人?

いやいや、ただの隣人ですよ。

人生は連れ合いだ。

ちょっと、ん?と思うようなやつでも
すぐに連れ合いになるから困る。

連れ合っているうちに、
絡まって、

そしてだんだん似てくる。

人生はスパイラルだ。

そう思ったほうがはやい。

この3人でストラグルに巻き込まれるなんてごめんだ。

優秀な航海士と一緒に死にたくはないだろう。

一緒に行動していなければ、
共に死なずに済むのだから。

テーブルの上で話すのはいい。
船室でじゃれあうのもいいだろう。

ただ、嵐の岬という航海に発ったとき、
はたしてお互いを支え合うほど強くいられるだろうか。

果たして、おたがいのことが認知できるくらいに
冷静でいられるだろうか。

その点ユウトは違う。
私が教えたこともいっぱいあったけど、

今までほぼ一人で立ち向かってきた。

人は一人ではないとかよく言う。

だが、それは社会の構造の話で、
人生の歩き方の話ではないのだ。

今までユウトを支えてきた。

これからもそうするだろう。
いや、そうなると思う。

この人生の長い旅路に、
嫌でも連れ合いは付き物だ。

だが、もしその連れ合いを愛してしまったとするなら、
もしその連れ合いがいないと寂しいのなら、

人生という航海は第三局面を迎えるだろう。

帰るすがら、ナツはアヤの話に耳を傾けつつ
自分のことを話そうとしつつ、

話にぶらさがっている状態だった。

「ねぇ、ナツ。無理してない?」
ナツは元気よく答えた。

「ううん、気にしてないよ。

ユウトがいないと寂しいなぁ~って」

正気か。女3人で男一人シェアしてるんだぞ。

寂しいとかあるのか。

「でも、シオリがたまに冷静になると
ちょっと顔怖いかもね~」
ナツは悪びれもなく言った。

無邪気だから許してやろう。仕方ないな。

丸い目に、ちょっと猫気味の目尻
人形のような顔に

若干彫りの深い陰影。

ナツは人物が顔を表しているというより、
顔が人物を超えている人間だった。

どちらかというと……そういう部類だと思う。

「なに見てんの?料金取るよ」
ナツは笑って言った。

私って、女と思われてないのか。

まぁ、ユウトとは血を分け合った仲だ。
いや、正確には人生を分け合った仲だ。

子供はできないと言われた。
あまりにも遺伝子が近すぎるためだ。

落とされた子供、いやアドベントチルドレンと言うべきか。

あったな~、そういえば。ファイナルファンタジーというやつ。

ユウトが一生懸命見てたけど、
あれになんのうんちくがあるんだか。

私は……クラシックを聴いていたほうがよっぽどましだ。

「今、ユウト家かなぁ」
ナツが不意に言った。したり顔だった。

「たぶん、あってると思うよ」

この4人は情報空間を共有している。
というか、脳はつながっていないのだが

高次機能的なレベルで
“テレパス”に近いことができるのだ。

だから、離れたとこにいても
場所が分かって当然。

あげくの果てには、
おたがい会話もできるし、

付近の会話だって入ってくる。

これを使っていることはあまり悟られることはないが、
そもそも、同じ学校に通ってるからあまりこの機能は
使わないようにしている。

もっとも、制御が利くのが一番の利点だ。
聞きたくなければ、おたがいの周辺音をシャットアウト
することもできる。

話が長くなったが、ユウトは、その……

俗に言う選ばれた者だと思うのだ。

本人は自覚ないが、なんとなく鋭いと思う。

そのうち、情報局にでもスカウトされるだろう。

私には知り合いがいる。アメリカ国家安全保障局の。

テレパスに興味があるようだが、
そんなこんなで能力の使い先を探しているというわけだ。





Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.