Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


ブロックス・シュミット―石の剣3 ささやかな日

ジョエルは、明くる朝ベットで目を覚ました。

ボロの布に、ボロの毛布。

気温小肌寒い秋のウォルシュタットでは、
この小屋ですら寒く感じられた。

というのも、最近の大陸の旅では
小屋のような宿屋続きなのである。

首都に行けばもっと石造りの大きなのに
出会えるが、

いかんせん地方ではあばら家が限界だった。

「シンディ、朝だぞ」

「え?」

シンディは大きく開いた口を慌てて閉じたかに
見えた。

「私、あほ面?」
シンディは笑って聞く。

「そうだとも。そうだった」
俺は自信満々に答えた。

「ひどい。もうちょっと手加減してくれたって」
シンディは若干傷ついたような目をした。

それでもずいぶんきれいな目だ。

そう言うおうとしたとき、
見ていなかったサイドから
ムーサの声がした。

「ふたりとも、紅茶はいったよ」
ムーサは荷物係りらしく、

紅茶をしつらえていたのだ。

「南岸産の紅茶だよ」

「それ、オラリエでしか手に入らないだろ」

「うん、買ったんだ」
いつのまにそんな買っていたんだ。

手元には大きな袋が2,3ある。

大きいと言っても、掌ほどの
袋だが、

中身が紅茶では高級品だった。

「ところで、明日、
いや今日の移動は馬車にする?

あんたらたるそうだし」
俺は聞いた。

アリスは寝たままか、
あるいは、もう起きて鏡の前かもしれない。

「今日は……、

歩く!」
ムーサは自信満々に言った。

いつもはロバを引いたりして
荷物を運んでいるのだが、

今日は台車を借りて運ぶらしい。

もっとも、その買い物癖が直れば
馬車なんていらないのだが。

「港町までは、馬車しかないぞ」
俺は言った。

「いいもん。時間かかったって」
ムーサはすねたように言った。

「じゃぁ、港町までは10日かかるぞ。

馬車使えば、5日だけどな」

「えーっ」

「いいじゃん、時間かかっていいんなら」

「でも~」

「もういい。馬車で行こう」

「やだ。歩いて行く~」

「じゃぁ、一個中継して行くか。

そっからは歩きで、
そこまでは馬車。

いい?」

「分かった」

ムーサ以外の意見を聞かずに決めてしまったが、
それでよかったようだ。

話している間に出揃った顔が、
みんな「うん」と言っている。

医師のドンは、昨日の晩からどっかへ行ってしまったが、
手紙を使えばいつでも合流できる。

もっとも、奴が手紙なんか見るのか
分かったものではないが。

手紙はギルドと鳩を使う。

ここらの鳥はなつくのが早いから、
すぐに目的を達成してくれるだろう。


という話はさておき、
一行は中継の街

ディスボンに向かうことになった。

「はったりの山」
という意味である。

長い扇状地形の末端にあるから、
そう呼ばれているのだろう。

遠くに山は見えるが、
近くは平坦な丘といったところだ。

砂漠がちのオアシスで、

気候は冷涼だが、

辺りはそこまで作物が獲れないことから
中継港としての機能に留まっている。

本格的に発展するには、
しっかりした交易路が必要だ。

そういうわけで、
馬車にすることにしたのだ。

ここらの馬は、荒地に強い。

好きというわけではないだろうが、
他の馬よりは耐えてくれるはずだ。

そういうわけで、
ディスボンへ向かうことになった。

ここの話は終わりだが、
ここからの旅は少々長い。

それでは、遠く離れた人々
よい日々を楽しんで欲しい。

このささやかな日の、
このつぶらかな日の。





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