Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


牧場の貴婦人

ルーネ―――ルーネ・アラカリクトは
胸が浮き出た濃い灰色から若草、黄色の
ルネサンスドレスに、褐色緑色のリボン、

亜麻色の髪にトンボ玉飾りの髪留めを身に纏い、

「ねぇ、あなた。まだ終わらないの?」
と執事を急かしたてた。

「そりゃね」
執事は言う。

「召使いの女が一人も居やしませんのに、
おとこ、それも爺いの私にお嬢の旅装を仕立てやしょうなんざぁ、

ちょっと難儀でさぁ」

「悪い子ね。もういいわ。あとは自分でやるわ」

「仕方ないでしょうに。急に召使いどもに暇を仰せ遣わせなあくらい、
飛んでいってしまって、召使いは一人もいませんやぁとに」
執事は呆れた。

「ねぇ、お婆ぁ。あなたなら手伝えるでしょう?」
ルーネお嬢さまはとっさに私を見た。

「へぇ?私でして?」
私は震える手を上手に、

「それじゃぁ、手伝いやすがお嬢様の
願いに叶いますかいなぁは、分かりゃーせんけどね」

ルーネは遠慮なく言った。
「お婆ぁ、時間がないのよ。急いでやってちょうだい」
ルーネは腰のベルトをきつく上に締め上げて、

髪飾りをいじりながら言った。

「仕方ないですかいな。しかしながら、
もう何もいじるところはございませんでしょうに、お嬢様」

「あら?そう?そうかしら?」

「そうでしょうよ、もう何もいじるところはございませんでしょうに」
執事も立て続けに言った。

「腰のレースが、もう少し高いアントワープ産のものでしたら、
さぞかし満足な仕上がりでしたでしょうな。

しかしながら、服に満足なされば、なんにも不満のない仕上がりでしょうに」
私はそうルーネお嬢様に言った。

「そうよ、絶対そうよ。やっぱりそう思ったわ」
ルーネはせわしく腰のレース飾りをいじりながら、
何事か焦りながら言った。

「あら?どうなさいまして?」
私は尋ねた。

「いやね、このレース飾りがもうちょっと上等なものならと、
アントワープ産のものならと、考えていたところだわ」
ルーネは不満そうだった。

「あら、やだ。私ったら急いでいるときに愚痴ばかり」

「仕方ないですな、お嬢様は」
私は言った。

「婿のことより、自分の服ですものな」

「もう!誰がよ!」
ルーネお嬢様は不満げに言った。





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