Nicotto Town


つれづれ、ひねもす


蛇と龍の話(前篇)

ちょっと前まで蛇と龍は同じカテゴリーだと何となく考えていたのだけど、「龍と蛇は別の系譜から来た」というお話があって、ちょっと興味が出たので調べてみた。

 
先に龍から。
改めて考えると、龍って幻想種で、東洋の龍と西洋の竜は時々並べて語られるけれども、東洋の――中国の龍というのは様々な生き物の複合体だ。

現代まで続く龍の姿が体系化されたのはいつかというと、南宋の羅願(らがん)(1136~1184)が記した博物誌『爾雅翼』で記述された「三停九似」説になるそうな。
これは元々後漢の王符(おうふ)(生没年不明)による「九似」に、羅願の「三停」を付け加えたもので、九似、つまり9つの物に似た姿と、三停は身体バランスを定めている。
 
先に三停を説明すると、
自首至項、自項至腹、自腹至尾、三停也
(首から腕の付け根、腕の付け根から腰、腰から尾までの三つの部分の長さが等しい)
 
九似は、
角似鹿、頭似駝、目似兔、項似蛇、腹似蜃、鱗似魚、爪似鷹、掌似虎、耳似牛。
(角は鹿、頭はラクダ、目はウサギ、首は蛇、腹はハマグリ、鱗は魚、爪は鷹、掌は虎、耳は牛に似てる)
 
この「目はウサギ」のところは「鬼」説もあるようで、出光美術館発行の研究紀要『龍の図像にかんする一考察――「青花紅彩龍門皿」を中心に』ではウサギ、京都国立博物館の博物館ディクショナリー「皇帝の龍」では鬼説を取っていた。
たぶん字が似てて(鬼と兔)どちらか分からないんだろうと思う。もしかしたら、写本過程で写し間違いもあったかもしれない。
鬼だとすると、これは中国における鬼という字は幽霊を意味する(幽鬼のたぐい)はずなので、幽霊の目をしていると読む可能性もある。
ウサギなのか、鬼なのか、幽霊なのか。だいぶ印象が違うなぁ……。
 
それともう一つ、蜃をどう読むか。
ハマグリと読むのか、あるいは蜃気楼を吐き出すという「蜃」と読むのか……。
先の京都国立博物館の紹介だと「みずち(蛟)」になっていたのだけど。
 
 
この九似には、日本語版wilipedia の注釈によるともう一つ説があるらしく、
明代の文人、唐寅(とういん)(1470~1524)の著書『六如居士画譜』で引用した、宋の董羽の著書『画龍輯議』(生没年分かりませんでした。画家らしい)によると
 
頭似牛、嘴似驢、眼似蝦、角似鹿、耳似象、鱗似魚、鬚似人、腹似蛇、足似鳳
(頭は牛、口はロバ、目は海老、耳はゾウ、鱗は魚、髭は人間、腹は蛇、足は鳳凰に似る)
 
という説もあるよう。
 
調べるついでにヒットした、台湾の寺院(なのかな?)竜山寺のHPの説明によれば
民間工匠或畫師對龍的九似則為「角似鹿、眼似蝦、鼻似狗、嘴似牛、鬃似獅、身似蛇、鱗似魚、爪似鷹、鬚似人」
(民間の職人あるいは絵師による龍の九似は「角は鹿、目は海老、鼻は犬、たてがみはライオン、体は蛇、鱗は魚、爪は鷹、ひげは人に似る」である)
らしいのです。
中国語の素養が無いまま、辞書片手にやったので、誤訳かもしれないけれども。
 
いずれにせよ、色々な生物のパーツを備えているようです。
たぶん陸・海・空の生物の混交体であることが、すべての生物の頂点に立つために必要だったのでは無いかな。
こうしてみると、蛇と龍ってあんまり似て無くて、むしろトーテム・ポール的な存在なのだなーと感じました。




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