Nicotto Town


アオイさんの日記


side 外と中の境界線・5

  頬が熱い。緊張で手のひらが少し汗ばんでいるような気がする。そういえばアオイさんがこの間、花嫁になる夢を見たって聞いたけど。誰の花嫁さんになったんだろう。そんな場違いな事を考えてしまいながら進んだ先。ぽつぽつ、と淡く点滅する光がひとつ、またひとつ、と増えて行った。

ゆっくりと川が蛇行して淵を作っていた。その川べりの木の枝にとまってホタルたちは休んでいるようだ。闇の中、淡く点滅をするひかり。人工的なものと違う、ささやかな、でも綺麗なひかり。
わあ、とアオイが無邪気な歓声をあげた。飼い主が興奮している気配を感じたのか、マロもまた、わふ、と足もとで尻尾を振りながら鳴いた。ゆっくりと迷うような残像を残しながら気まぐれに飛んでいく。その光に目を奪われながら、ありがとう。とヘイゼルはアオイに礼を言った。
「アオイさんが教えてくれなかったら、俺、ホタルの事を忘れていたところでした」
ヘイゼルの言葉にとんでもない、とアオイは首を振った。ほんの少しくせのあるアオイの髪が肩の辺りでゆるりと揺れたのが闇の中でも分かった。
「こちらこそ。お散歩に付き合ってくれて、ありがとうございます」
そう言ってから、ふとアオイが微笑んだ。
「元気になりましたか?」
「え?」
「今日は、ヘイゼルさん元気がなかったみたいだから。本当はヘイゼルさんの好きなプリンをサービスしようかな。と思っていたのだけど、もう帰るっていうから」
屈託のない様子でアオイはそんな事を言う。

 落ち込んでいたのは確かだけどやっぱり好きな人に格好悪いところを見せてしまって恥ずかしいなぁ。とヘイゼルは赤面しながらもう一度、ありがとうございます。と言った。
「ヤマブキさんの歌声大会の件ですか?ヘイゼルさんも人前で何かするの、苦手?」
アオイの問いかけに、落ち込んでいた理由は少し違うけれど、と思いながらヘイゼルは頷いた。
「返事、どうしましょうか」
「どうしようか」
ヤマブキへの返事を保留している者同士、顔を見合わせて困ったように笑みを交わした。

 どうしようか、なん言っているけれど。きっとアオイはヤマブキの提案に乗るだろう。そうヘイゼルは思った。迷っても、立ち止まったりしても、アオイはいつも前へ行く事を選ぶから。
 最初は単に見た目が好きなタイプだけだったのに。些細な事に気が付いてくれるところだったり、か弱げな見ためと違って芯の強いところだったり、ちょっと強情なところだったり、子供みたいに素直に何でも信じてしまうところだったり。
 気が付くとアオイの好きな所は沢山増えていて。
 自分は、アオイに好きになってもらえる所、増えているのかな。とヘイゼルは思った。
 自分は、なんだかんだ言いながらアオイみたいにちゃんと前へ進む事を選んでいるのか。アオイの事を好きだと胸を張って言えるような、そういう人になるための選択を、自分はちゃんとしているのかな。

 ふわりと、道しるべのように点滅しながらホタルが目の前から少し先へ飛んでいく。
その様子を目で追いながら、俺はやろうと思います。と無意識のうちにヘイゼルは言っていた。
「俺、やってみます」
滑り落ちてしまった決意の言葉不安を感じながら、ヘイゼルは自分自身に言い聞かせるように、そう言った。
この、ホタル狩りの雰囲気に乗っかって、勢いだけで言っているような気がしなくもない。本当に出るのならばこれから毎日ギターの猛特訓をしなくてはいけない。
 自信なんかやっぱり無くて、これからも自信を持てるなんて到底思えなくて。
 でも、それでもやっぱり、外から眺めるだけの距離はもう嫌だから。

 ずっと、繋がれたままのアオイの手を、ぎゅ、と握りしめて、一緒にやりましょう。とヘイゼルは言った。
「できればアオイさんと一緒にやりたい、です」
できるだけさりげなく言おうとした言葉はだけど、なんだか裏がえってしまった。


―――――
メモ機能でなくワードで書くと、なんだか書きやすいので、長くなってしまいます…
ヘイゼル少年はなんだか若いなぁ~

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2011/06/23 22:09
>Mizさん
おお!未来予想が!!
どうなんでしょうか。初恋はやっぱり実らないから…
って、行き当たりばったりで書いてるので、私自身もどうなるか分かりません(笑)

ヘイゼル少年は、この後成長して一人前の男になってアオイさんを迎えに来るのか。
はたまた、成長してもアオイさんの前ではやっぱりもだもだした少年のままなのか。
…ホント、どうなるんでしょう…?

風景が想像できるという言葉、凄くうれしいです~!
タウンを舞台に。とか言いながらものすごいオリジナルな場所を作っていますがw
喜んでいただけて幸いです☆
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2011/06/23 21:53
>藍流さん
青春ですよ~^^
もだもだしてばかりのヘイゼル少年だって頑張るんだよ!という気持ちでしたw
アオイさんは恋愛変化球には絶対気がつかなそうですが、直球はどうなんだろうか。と思いつつ。
でも気がつかないだろうなぁw
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2011/06/20 15:26
ヘイゼル少年の恋はやっぱり実らないのかもな~なんて読みながら思ってしまいました。
淡い初恋の思い出になりそうな…?
アオイさんとの出会いは人として成長するためだったという感じ。
勝手に未来を予想すれば、ですが(笑)

ところで私は本を読むのが大好きですが、本を読んで風景を想像する(思い浮かべる)のが苦手なのですが
アオイさんの文章は場面や風景が想像できる!って今思いました。
夜空に浮かぶ天空・蛍が舞う川…素敵な景色の中に暮らしているアオイさん。素敵だな。
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2011/06/18 20:49
青春ですね~。
微笑ましいなぁ^^
天然お姉さんとどきまぎする少年の図。美味しいですw



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