むっつりとした表情でひとり、ジュースを飲んでいるアオイと同じ年頃の女の子に、ヤマブキとカスミは顔を見合わせた。

　いらっしゃいませ、といつも通りの笑顔で迎えてくれるアオイに、それぞれコーヒーやかき氷、などなどオーダーを頼んで席に座り、二人はそっと女の子の様子をうかがった。
　くるくると癖の強い黒髪に黒い肌。涼しげなワンピースに素足にサンダルをはいているのがよく似合う、海で遊ぶのが好きそうな、そんな普通の女の子。だけど、普通の女の子に見えるのだけれど、普通の女の子らしからぬ、魚のヒレのような耳。
「あれは作りものかな？」
そうこっそりとヤマブキがカスミに耳打ちをすると、ぴくりとその魚のヒレが動いた。あ、やっぱり本物っぽいな。と思うヤマブキたちに、女の子はじとりとした視線を向けてきた。
「失礼な人たちだね」
眉間に皺を寄せて、女の子は不機嫌さを露わにそう言った。

それは初めて見る、魚人の女の子だった。

「この間言ったじゃないですか。竜宮城で女の子に会ったって。」
そう朗らかにアオイは言った。昨日の夜も来てくれたんですよ。なんて事を言うアオイに、ヤマブキは、ああ、と画点が言ったように頷いた。
「あの話は本当だったのね。私、アオイちゃんがまた寝ぼけてるのかと思ってたよ」
さらりと酷い事を言うヤマブキに、そんなにいつも寝ぼけていませんよ。とアオイはおどけるように顔を顰めた。
「本当の話です。だって実際にイサナさん、ここにいるじゃないですか」
ね、とアオイが女の子に話を振るように声をかけた。
イサナと呼ばれた女の子はしかし、ふい、と不愛想にそっぽを向いてパフェをもぐもぐと食べている。
「なんか、態度悪いなぁ、あなた」
イサナの態度にヤマブキがぶう、とむくれた。
「はじめて出会った魚人のあなたには、色々と訊きたい事がたくさんあるっていうのに」
ぶうぶうと文句を言いながらアイスに手を伸ばしたヤマブキに、イサナはつんとそっぽを向いたまま言った。
「そんな興味本位な質問に答えたくない」
「あ、分かった。交換条件として人間について訊きたい事があったらそれに答えるから。どう？」
「私には訊きたい事何も無い」
ばっさりと、そう言い捨てて。イサナはアオイに向かって、この人変。とヤマブキのことを言った。
「この人、すごく変っている人じゃない？」
問い掛けというよりもほとんど確認のためのような口調でそう言うイサナに、アオイは微かに首を傾げた
「この人じゃなくてヤマブキさんっていうの。ええとね、ヤマブキさんとカスミさん」
とんでもなく的の外れた事を言うアオイに、イサナが再び顔を顰めた。
　そんな彼女の様子にカスミはぷ、と吹きだしながら、諦めるのが一番よ。と言った。
「アオイちゃんは天然だし、ヤマブキは変人だから。観念して質問に答えた方がいいわ。あと、私もこの人、とかって呼ばれるよりも、カスミって呼ばれた方が嬉しいわね」
ふふふ、と笑いをかみ殺しながらも有無を言わせない調子でカスミはそう言った。イサナは一瞬戸惑ったように口を閉して俯いた。がすぐに、カスミの言う通り観念したのか、それでも少し素っ気ない態度は変わらないまま、わかったよ。と言った。
「わかったよ、カスミさん。ヤマブキさんの質問に答える」
不愛想なようすの中に、少しだけはにかみを宿したその返事に、カスミは満足げにうなずいた。



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日記から空いてしまいましたが。
イサナさんの話を少しだけ、ようやく書きました～。
盆踊りも始まっちゃったし！！
きゃー！！間に合っていない！！（笑）