side スノードーム・1
- カテゴリ:自作小説
- 2011/12/24 16:16:42
ワタリが旅立ち、アオイの日常はまた以前と変わらぬものになった。この街にやって来て、知り合いや友達と呼べる存在が増えて。そんな温かな生活にもどった。けれど、とアオイは思う。ほんの少しだけ、ホームシックのようなものにかかっているのかもしれない。
ここで暮らしていくのだと決めているのに、幼いころに暮らした北にある寒い空気に包まれた、あの街の事を思い出してしまうのだ。
クリスマスイブの今日。パーティの準備をすべくアオイはお店で朝から作業をしていた。七面鳥の丸焼きに、胡瓜とサーモンのサンドイッチ、ジンジャーマンのクッキー、それにクリスマスケーキ。飲み物は大人にはホットワインを、自分も含めてまだ未成年にはスパイスティーを。
ひとりではたいへんだから、とサハラもまた朝から手伝いに来てくれた。朝の挨拶の後、サハラがアオイの顔を覗き込みながら、ワタリさん行っちゃいましたね、と言った。淋しいのが顔に出ていたのかもしれない。
折角のクリスマスなのに。そう思ってアオイは笑顔で大丈夫です、と言った。
チキンをオーブンに入れて、トマトソースを作って、パスタを茹でる準備をして。付け合わせにはマッシュポテト。サンドイッチのパンを切らなくちゃ。ああ、そろそろクッキーのオーブンが鳴る。
ワタリが旅をし続けているのは昔から。それは、仕方のない事。それよりも、とアオイはサハラに気づかれないようにこっそりとため息をついた。
やっぱり少しホームシックなのかもしれない。
「メリークリスマス!」
明るい声で真っ先にやってきたのはヤマブキだった。その後に続いて入ってきたのはイサナとフカ。その後も続々とお客がやってきた。皆色とりどりに着飾って、クリスマスらしい装いをしている。
「アオイちゃんは今回はおしゃれしていないの?」
久しぶりにやってきたナンテンがそう声をかけてきた。その言葉の通り、アオイは今日は紅いエプロン姿だ。一応、クリスマスカラーだし、小物をクリスマスのものにしてはいるが、いつものように華やかな格好をしていない。
「ああ、何だか忙しくて、お洋服買う暇がなかったんです」
そう言って苦笑したアオイに、ナンテンは、あらま、と瞳を瞬かせた。
「折角のクリスマスなのに。知ってたらドレスを持ってきたのに。私のだったらアオイちゃんにぴったりでしょ?」
「手持ちのドレスでもいいから、着替えておいでよ」
横からカスミもそう声をかけてくる。その言葉に、でも、と周囲を見回しながらアオイは呟いた。
「もうお客様も沢山来ちゃったし、動きづらくなると困るし、それに、まだケーキの飾りつけも終わっていないんです、実は」
「あら、ケーキはサハラ君に任せればいいわよ」
そう半ば強引にアオイの腕を引きながらカスミとナンテンは店の奥へ、アオイを連れ去ってしまった。