Nicotto Town


アオイさんの日記


side スノードーム・2

「このドレスがいいわ。これアオイちゃん着て」
「ほら急いで。メイクと髪の毛もやってあげるから」
そう言ってカスミとナンテンが両脇からアオイの身支度の手伝いをしてくれる。アオイはほぼされるがままの様相でドレスに着替えて髪を梳かれていた。
「あ、ありがとうございます」
戸惑いながらもアオイがそう礼を言うと、とんでもない、と両側から返事がやってきた。
「自分たちのやりたいようにしているだけよ、私たちは」
そう言って器用に髪を巻きながらカスミが微笑んだ。
「アオイちゃんが元気なさそうにしているのを見るのが嫌なのよね」
「そうそう。ワタリさんと私たちじゃあ釣り合いが取れないかもしれないけれど、やっぱりアオイちゃんには笑っていて欲しいのよね」
そんな事を言ってくれる。
 ごめんなさい、とアオイは思わず言い掛けて、首を横に振った。
 ごめんなさい、じゃなくて、ありがとうだ。
「ありがとうございます」
アオイが正面を向いてもう一度そう言うと、二人は鏡の中で笑っていた。

 ドレスに着替えてアオイたちがお店に戻ると、お客はほとんどやって来ていた。ヤマブキにイサナ、シドにブラウンとその家族、それに常連の面々が。けれど、その中で一人だけまだ来ていない人が居た。
「あの、ヘイゼルさんはまだ来ていないんですか?」
傍にいたヤマブキにそう声をかけると、遅れるって言ってたわね、と返事が返ってきた。
「ヘイゼル君は少し遅れるって、そんな事を言っていたような気がするわよ」
「そうですか」
「何、気になるの?」
横からイサナがからかうようにそう言ってきた。その言葉に目を丸くしながらアオイはこくりと頷いた。
「そりゃあ、気になりますよ」
大切なお客さまだもの、と思いながら生真面目に頷くアオイに、背後でシドとブラウンが、少年も気の毒にな、と小さくつぶやいていた。
「まあとりあえず、乾杯をしちゃいましょう」
そう音頭をヤマブキが取ってくれる。乾杯の言葉に合わせてそこかしこでカチンカチン、とグラスの触れ合う音が響き泡立った。
 雑談をする、ざわざわがやがやという声が料理の温かな湯気の合間を縫って広がっていく。かちゃかちゃと食器の触れ合う音も。
 ドレスに裾に気をつけながらアオイはテーブルの合間を縫って給仕した。鳥の丸焼きに歓声が上がる。なんだか少し誇らしく感じながらアオイがチキンを切り分けていると、からん、とドアが開く音が響いた。
 やってきたのはヘイゼルだった。クリスマスらしく盛装をしている。外はずいぶん寒かったのか、その頬と鼻は赤く染まっていた。
「遅くなりました」
そう言って席に座る。ちらりとアオイと視線があった瞬間、何故だかばつの悪そうな表情をしていた。




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