Nicotto Town


アオイさんの日記


side スノードーム・3

  パーティは順調だった。皆大いに飲んで食べて、お喋りをして。和気あいあいとした気配が店中に広がっていた。アオイもまた皆とお喋りをし、食べて飲んで、この夕べを楽しんでいた。少し前に感じていたホームシックも気が付くとどこかへ行ってしまっていた。その事に気がついた瞬間、げんきんなものだ、とアオイはひとりこっそり苦笑をした。
 そんな中で、ヘイゼルだけが少し元気がないように見えた。アオイが声をかけてもどこか上の空のような、そんな雰囲気だった。
「ヘイゼルさん、大丈夫ですか?なんだかぼんやりして、風邪でも引きましたか?」
そう声をかけると、ヘイゼルはいっしゅんびくりと肩を震わせて、それから困ったように笑いながら、大丈夫です。と言った。
「大丈夫ですよ」
そう安心させるように言ってくれるから。ほっとアオイもするのだが、やはりヘイゼルの様子がおかしい。
 何かあったのかしら、とアオイが首をかしげていると、ヤマブキがそっと耳打ちをしてきた。
「ヘイゼル少年は覚悟を決めたみたいよ」
「覚悟って、何のですか?」
「おっとこれ以上は他人の口からは言えません」
ヤマブキはそう言って、ふっふっふ、と人の悪い笑みを浮かべるばかり。一体何の覚悟を決めたのだというのか。
 意味が分からずキョトンとしてしまったアオイにイサナが慰めるように声をかけてきた。
「アオイはただ待っていればいいだけだよ」
「何をですか?」
更に意味が分からなくなりながら問い掛けるアオイに、ヤマブキをはじめとして皆が意味深な笑みを浮かべるばかり。
 本当に、いったいぜんたい何を待てというのか。
 腑に落ちないながらもアオイはクリスマスケーキを出すためにいったん厨房へ戻った。

 チョコレートクリームのブッシュドノエルを切り分ける。途中でデコレーションをほおり投げてしまったのだけど、残りをサハラはちゃんとやってくれたようだった。というか私よりもサハラさんがやったほうが上手かも。なんて事を思いながらアオイが切り分けていると、サハラが運ぶのを手伝いにやってきてくれた。
「持って行きますね」
そう言って端から皿を持って行くサハラにお願いします、と声をかけると、サハラはふと思い出した様子で顔を上げた。
「アオイさん、ヘイゼル君は庭に出てしまっているので彼の分だけ別に運んでくれますか?」
「あ、はい分かりました」
サハラの言葉にアオイが頷くと、サハラはなにやら意味深な笑顔を見せて店内へ戻ってしまった。
 皆、本当に何であんなに意味深な笑顔を向けてくるのか。丁度良いからヘイゼル本人に訊いてみようか。そう思いながらアオイはヘイゼルの分のケーキを手に庭へ出た。




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