Nicotto Town



古今亭志ん生『五人廻し』前話その2

 こういうようなのが本当の遊びの味なんで、そうなってくるとただ言って口さえ聞いてりゃあそれで何とか気の済むような心持になるのですが、まずこの初回なんぞで来る人はな、パーと上がる人がずいぶん有るもんですね。 フラフラーと上がる人と馴染みの人と雑多になっておりますからな、えー色々でございまして。

 吉原という所はずーっとこの女の子が並んでおりまして、上(かみ)を張ってるのをこの、御職と言いますな。 これだけの中の御職、つまりNo1・・英語知ってんだから恐ろしくなる。 御職から2枚目、3枚目あたりになるととても体の動いたもんでございます。

 そう言うような訳で、ちょうど12時というのが中引け(なかびけ)と言いまして、そのときには付けと言いまして拍子木を、あのおばさんというのが廊下を叩いてくる。 “チョン・チョン・チョ・チョ・チョン、” この拍子木の叩き方の音なんてのは、今の方は全く知りませんが、あたくしが一つやってみます。

 “チョン・チョン・チョ・チョ・チョン、チョン・チョン・チョ・チョ・チョン・・・時ですよー!” それをこう付けを打って来ると、そうするてぇとお客と一緒に居た者も付けを聞くてぇと飛び出して行って自分の札を返してくる。 そして返してそこへ帰ってこないで他へ行っちまう、そう言う事ですな。

 それから大引けというのは2時、2時にはこの付けが鳴るってぇと店の明かりが暗くなっちゃう。 そうするとそれでもう自分の役目がすんで引き上げて、だれさんの所へ行こうてんで、そこへ行くんですな。 そうしていい加減なところであの人にも義理が有る、あそこにも行こうというような訳なんですが、この大引けという・・

 中にはお客のない子は、これを御茶を引いてしまうてんで、一人もお客が無いというと仕方がないから主人の所へいって謝ったり何かする、実に辛い! そう言う遅くなっちゃうとね、そう言う所へ行きゃあ安いですからね、えー、だからこう狙っていて遅くなってわざわざ行くために方々冷かして歩く、足が棒のようになっちゃう、それで安くなってからあそこへ行く。

 だから昔は吉原の中にも寄席というものが有りましてな、それは何だと言いますと、お客が冷かして歩くとくたびれるから寄席にでも入って時間を繋ぐ・・・ですから寄席の始まるのが9時(21:00)ぐらいですな、ちょうどお客様を出す仕舞が12時という中引け頃に“有難うございます・・(ダンダンダンダンダンダンダン・・・)” 客がそれから出てくる、そしておでん屋かなんかでちょっと引っかけていい心持ちになってから・・そこへ行く我々の連中は商売に行ってもみんな一文も持たずに帰ってくる。 そりゃそうなんですよ。2時になっちゃうからね、しょうがないんですよ~、家けぇることが出来ねーでしょうからねぇ。 寄席で寝てようてぇと周りに女の子達がいてどうしてもここに居られなくなっちゃう。 えー、だからあそこへ興行に行って、何しに行ったか分からなくなっちゃうんですよ~。

 その頃の花魁の姿はてぇと、頭はサグマ(?)と言いましてな、えーそして緋縮緬(ひじりめん)の長襦袢に上から友禅模様の仕掛けというのを羽織っております。 この仕掛けを羽織ってまして、こいつをこうずうっと高く羽織って右の手でこう端(つま)を取るんですな。 芸者衆は左でとる、あの社会は右でこう端を取るんですな。 で、片っぽこう懐手にして厚い草履を履いて、10万円ぐらいの草履を履いてる。 えー、こうしてパタパタパタパタ・・そのあと付いてくとね・・“へへへ”なんてね・・・こいつぁあその姿というものが大変よろしいもんで、ですからその頃はまだ足袋を履いてませんでしたな、ありゃあ足袋を履かず素足でなきゃあいけないんですよねー。 えー・・“送る朝寒迎える夜寒、里の廊下になく素足” それが段々段々足袋履くようになった、仕舞いにはコール天(畝織のビロード)の足袋なんか履いてる、え~、あの鬼殺しなんと言う・・色っぽくないねありゃねー!




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