全くどうもあそこ行って、えー、いくら待っても来ねぇなんてくるとなー、えー、木に取られた木魚のように布団にぶっつわっ（座る）てねー　「う～う、いやだねーどうも、来るんじゃ無かったよー、なー・・こんな事ならお袋の寺参りでもすりゃぁよかった」　あそこ行ってそんな事を思い出すようじゃあもう駄目ですな。

「あ～やだね、え～～！　どうでぇー、またこの廻し部屋はひどいね～！　えー、障子だの壁へみんな落書きして有る、落書きにいい手はねぇと言うが全くだね、え～！　“この内は牛とキツネの泣き別れ、もうコンコン！”・・やんなっちゃうなー、本当になー・・・癪に障るなー、えー！　どうして来やがらねぇだろうなー今夜はなー、うん・・一つ・・寝ようかしらなー・・寝るてぇと女が来やがって“あらこの人良く寝てる”からってもう一回り廻ってこようなんとな・・大体俺の寝顔は良くねぇって友達がそう言った。　おめぇは人に寝顔見せんなよって言やがんだよ、“起きてる顔はどうだい？”　“起きてる顔もよくねぇ”　“じゃ俺はどういう顔がいい？”　“てめぇは死に顔がいい！”・・・（トントントントントントントン）　え！　上草履の音ですよ、ねーまだ運勢地に落ちないよ、他を廻って俺のとこへ来よってんだなぁー、マブは引け過ぎと来たよー、俺ゃあマブだー」　アブみたいな顔してなー・・・（トントントントントントントン）　来たなーと思うてぇと、このどっかへすーっと足音が消えちゃう。

「何だい！　えー！・・こっちへトントンと来たかと・・他へ入っちまう・・低気圧がそれたよー」　“トントントントントントントン”　「あれだ、来たなー！　ちょいとこう、え、寝た振りしちまおう。　“まだ寝ないの？”なんてぇのはだらしがないからなー、えー。　“かー、かー”そこへすうっと障子があいて、“まああ、遅くなってすいませんね”てな事言ってくりゃあ、“何、いいんだよ”なんてな事言って！」　そこへそうだと思ってる所へ、そこの若い衆かなんかがね、ひょいって入って来た日にゃあ、これはいい心持ちにはなれませんなー。　“クー、クー”　目を明いて鼾を掻いてる・・・

『へへ、えー、今晩は！』　「何だおめぇは？！　え！　何だよ？」　『へい、えー、何ですか、花魁おりません？　あーそうすか、へぇへ、お一人様ですな？』

「何を？！　一人さんですな～！？　辺りに居なきゃあお一人さんじゃあねぇか！・・えー、お前んとこにお半分さんてのいんのか？」　『へえー、え～～、お一人さんでは定めしお寂しい事でございましょう。』　「悔みを言うなよこん畜生！夜夜中お一人さんじゃあお寂しいに決まってらぁ！　お１人さんでお賑わいさんてなぁねぇんでい！」

『ただ今お目覚めでいらっしゃいますか？』　「何を？！　ただ今お目覚めでいらっしゃいますかぁ？　おい！お目覚めってのは寝ていて起きるからお目ざめてんだ、えー、おりゃぁまんじりともしちゃぁいねぇぞー！　起きっぱなしでお目覚めてのが有るかい！」　『へぇ、えー花魁はどなたです？　はぁー、あ、喜瀬川さん、ええ喜瀬川さんならもう程無くお廻りに成りますから。』

「程無くお廻りに成るって・・おりゃあ大掃除をして検査待ってるんじゃねぇよ！　何を言やがんでぇー、お廻りもチンチンも有るけぇ！本当に。　おりゃあなー、女が来ねぇからっておりゃぐずぐず言うんじゃねぇよ！　えー、物には法ってもんが有るんだなー、え？！　宵に来たよ！　“今夜お前さん、忙しいから勘弁しておくんなー、今次埋め合わせをするからねー”かなんか言ってけてんだよ、宵にちらりと見たばかりでぬか漬け女てな有るが、脱色じゃねぇかこれじゃぁ、えー！　何もおりゃあ女が来ねぇからってぐずぐず言うんじゃねぇや、ただ一言言ったらどうだい、えー！　何だいおめぇんとこの喜瀬川って女は！　ありゃあ何だよ本とに、客振るつらじゃねぇぞ、廊下へ出てケツでも振れって言え！」

『あー、さいでございますかな。』　「てめぇじゃ分からねえ、もっと人間に近けぇ奴だせ！」　『え？』　「もっと人間に近けぇ奴出せよ、文句言ってやるんだから！」　『えー人間に・・近く無いですかな？』　「てめえなんざ出来のいい猿だ、本とに！」　『出来のいい猿？』

「当たりめぇよ、もっとこうはっきりした者連れて来い！区役所行って籍の入ってる。」　『えー籍は入って居ります、へぇへ・・えー他に若い者居りましても、ここは私が引き受けて居りますんで、はい、それは寝ず番の役でございます、へえ。　ですから他の者が居りましても出せないというのは、すなわち廓の方式になってるんで・・』

「何を？！　すなわちだー！すなわちってツラかい、すり鉢のケツみたいなツラしやがって！」
（その２へ続く）