風の街で
- カテゴリ:30代以上
- 2017/07/25 22:39:20
路地脇の駐車スペースに車を納めドアを開けると、雨も止んでいた。
向かい側のラジオ局の正面のドアから、そのご婦人はひょっこり出て来たのだった。
あまりにも唐突で、まさかと思ったのだけれどとても似ている。
もう10年ほどのご無沙汰になるので、お互い10も歳を取っているはずだもの。
人違いかな、とも思って何度も見直すがやはりその人のようだった。
こちらから近づいて、挨拶をしてた。
「〇〇さん?」と、ご婦人も私に気付き声をかけてくれた。
しばし、懐かしい話や近況などを。
その後、ご婦人は身体に「癌が見つかったのだ」と明かした。
・・・さっと小さな風が吹き抜けた気がした。
もともと町の名主の上、前市長夫人であるご婦人。
そういえば、その前市長の時期にうちの街って「風の街」と名乗ったのだったかしら。
で、ある会の元代表をしていたご婦人はやはり風格もあった。
もの言いも、ゆっくりと落ち着いていらっしゃる。
どうやら病気がわった後に、会の代表を退いたらしい。
しかし・・・財力に守られた人はやはり違うな、とも思った。
生活する上での安心感が違う。身のこなしも違う。
私の考え方、卑屈かしら?
そういうものには、生まれてこの方縁のないのでそう感じてしまうのかな?
その会に「またいらっしゃい」とご婦人は言う。
「足がないんです。」と私。
ご婦人は、今も時折その会に顔を出すのだが、タクシー通いだと
さらりと言うんだもの・・・。
そして、病気と共に日々を送って行くのだとも言った。
「ゆっくりね。」
私も「ゆっくりですよね。」と。
しばらくして、ご婦人の待ち人が現れた。
「では、私はこれで・・・。」
あいさつを交わし、別れる。
ご婦人は、今来た方との初対面での対談番組を収録するのだと、
ラジオ局の中へ緩やかに入って行った。
なにして身体いたくなった?
治療する上でも大きな安心感がありますよね。
それをいいな〜って思うくらいは、卑屈とかではないと思います。