Nicotto Town



夕立勘五郎~古今亭志ん生さん その1

「ねぇ おい」  

 「え~」

「今夜一つ退屈だからあそこ行こうか・・」

 「何処へ?」

「横町の寄席へさ~」

 「何だい?」

「浪花節だよ~」

 「ふ~ん、どんなのやってんだ?」

「何しろ大変だぁね、日本一の侠客物の名人てんだからよ!」

 「あ…ん!なんてぇんだ?」

「赤沢熊蔵てんだ」

 「赤沢熊蔵??あんまり聞いた事ねぇね!」

「つまり何だよ、廣澤を赤沢と向こうを張ったんだね…寅蔵を熊蔵っときた奴だ!」

 「へぇ~~、行って見ようか?」

「行こう!・・・・・ごらんよ~どうだい!・・・今のうまかったねぇ~」

 「こんだぁ出てきたのが先生てのかい?・・・・・これかい、侠客物の名人てのは? ・・・な~るほど・・ふ~~~ん、なかなか立派だね。顔はうまそうだな~・・」

「そうだよ!」

・・・・・・・・・

『あ~~~~うん!・・・あ~~~~~うふ・・・えぁ~~~~~うふん・・・』

 「何だよぉ、カラスが子を取られたようだなぁ・・」

「黙っといでよ!」

『えぁ~~いっせきぇ~きょうだん(講談)にうかげぇますでぇ、遅咲きてぇ事ぬなりぇます。 うかげぇつきになりまする、こうかく(侠客)!おおだつぇかんごろうの、うぃっせき(一席)!』

 「へぁ~~なんだよ・・・、これは何かい、どこの夕立だい?」

「黙っといでよ、こういうのが面白いんだよ~~」

『あしゃぁ~~じゃ~~と、おめ~~~やこけろのあだざくら~~~!だけぇら~~~!おかぬあらすは(岡に嵐は)吹かぬもの~~~、人はいつでぇ~~名はましぇでぇ~~!  人すんで(死んで)名をおこし(残し)~~~、虎死んで皮おこす~~~!

 こけぇにうかがう、うっせき(一席)は~~、こうかく!ううだつかんごろ~えぇ~~、えかがなりますずかん(時間)まで~はんしぇこらえて努めましょう~~~あぁ~~

はりば(されば)このこうかくぐれぇ難すいものはねぇ~! どうゆうわけでぇ難すぇかとゆうと、どけぇとえうものが(度胸というものが)よくなければなんねぇ~!ふとの(人の)ためには、すんめぇ(身命)を投げうたねばなんねぇ~。

 そうずう(上州)くぬさだ村のつうず! おおめぇ~だのやぇ~ごろ!せめず港のずろちょう!なんてぇと、えらぁ~侠客だが、これにうかがう、おおだつかんごろうてぇと、一人でどう言う訳でぬぬんめぇの(2人前の)なめぇをとったかってぇと

 “ある日の事ぬ~、勘五郎~~~おもてのかたを(表の方を)~~~~~ふんだりこぉ・・ふんだりこぉ・・と歩いていると、遥かもこぉより、『とらてぁ~げんだりすると(?)怪我ぁするから、ぬげろぬげろ!』とゆうではねぇか! 

 何であらんと勘五郎が、小手をかざしてながめると、とんでめぇったこの馬は、松でぇら公がえがくかわぇがってる、ううだつ!と言うんま(馬)。

 そべぇきて勘五郎~駆け込まんとしたから、やられちゃぁてぇへんだーと、・・え~~~~、手を右へ左へと躱(かわ)していたけんど~~こうなればもう・ずひがねぇ(是非もない)と、勘五郎~!   んまのまたぁ(股)くぐっておいて、ぎんこうをかため、んまの横っ面ぁはっくりけぇしたら、このんまぁがころりとすんだでねぇか!・・何てぇつからだんべぇ~!・・・これがううだつという仇名の始めであるまして(ありまして)、・・・”

これから先をやっとりますと~、お長くなるでぇ~、あぃ明晩までお預かりぃ~~~』

 「何だよおい!」

「おい!おどろいたねぇ~どうも!・・・先生!」

『何だねぇ』

「何だねぇじゃねぇやな、これは何処の侠客だい?」

『こりは、いどのこうかくおおだつ勘五郎の生い立ち』

「何を言いやがるんだよ、江戸の侠客ってこたぁないよ! 江戸にううだちなんてのはないんだよ、江戸の侠客はね夕立勘五郎てんだよ~~・・“げんこ”を固めるってのはあるよ、“ぎんこう”を固めて殴るなんてのはないんじゃないか? こんなぁ・・・なんだなぁ浪花節ってなぁ聞いた事ぁねえな! 全く、おどろいた!・・いったいおめーの国は何処だ?」
 
 (その2へ続く)




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