胴斬り~林家正蔵、首提灯の序 その1
- カテゴリ:お笑い
- 2009/02/11 00:31:36
お侍といえども度胸の座りましたな、物に動じない、なんて方ばかりはない。 中には臆病な方が、よんどころ無く親の後を継いで旗本になった、大名になった、なんて方もございます。
こりゃあ本所のさるお旗本の殿様!石高も相当にお取りあそばして、広大な屋敷にいらっしゃる。 ところが肝っ玉が小さいから夜、目が覚めても1人で厠へ行かれません、必ず奥方を起こす。
「奥!・・う~~厠へ参る。 ともしびの用意を致せ!」ってんで、・・奥様が先へ立って、こう手燭を持って長い長い廊下を歩いていく。 あとから殿様が “あっちを見、こっちを見!”・・・・・
「奥、そなたはこの暗がりを歩いて気味が悪くはないか?」
『はい、私は何とも思いませんのでございます。』
「う~ん、さてさてよい度胸だの、さすがは武士の妻だ!」 なんて何だか分からないほめ方がある。
若侍の方は、これはまた剣術に励んでましてな、いいわざものを手にして、これをその見せびらかして、なろう事なら試し斬りもしたい! なんて言うのもありまして、刀屋の店にぶらっと入ってきて
「あ・・許せよ!」
『いらっしゃいませ、どうぞお掛け下さいますように。・・・あのお蒲団をもっといで、・・・お当て下さいまし。』
「当家は刀屋であるな!」
『はい、ありがたいことに手前で5代に相成ります。』
「ふ~ん、5代も刀屋を致しおるのか、それは旧家であるな。 では定めしよい腰の物もあるであろう。」
『さようでございます、ただいま手前どもで自慢に、御覧入れますのが伯耆守安綱(ほうきのかみやしつな)!』
「は~~ん、大した刀があるな、それは代金は何ほどだ?」
『え~、三千七っちゃく両にございます。』
「は~~刀もいいが値もいいな、三千七っちゃく両!・・ふ~~ん、もそっと安いのはないか?」
『え~~三条小梶宗近と言うのでございますが、これは真偽の程はお請け合いはできませんが、斬れ味は見事なものでございます。これでございましたらば千二百両』
「は~~千二百両な!・・もっと安いのはないか? 千と言う物を取っ払ったような安い物をな!」
『ははぁ、かしこまりました、・・これは井上真改(しんかい)で七百両でございます』
「は~七っちゃく両か、もっと安いのはないか?」
『これは無名の新刀でございますが、三百両!』
「もっと安いのがいいぞ」
『これが二百両、・・これが百五十両、・・これが七十両・・・』
「もっと安いのがいい!」
『これが三十両にございます。』
「もっと安いのがいいな。」
『・・・失礼でございますが殿様、お腰の物でございましょう? 家重代の宝にあそばすお腰の物を安いのを、安いのをとおっしゃいますが、いったいそのお代は何ほどでお求めになるお心持でございますかな?』
「そうだな、拙者の相場は一貫3百だ!」
『はぁ~、一貫3百!?? どうでもいいという値段でございますな。・・よろしゅうございます。 私共も親代々の刀屋を致して居りまして、一貫3百の刀がないと思われますのも業腹! ただ今お目にかけます。・・・・・小僧!物置に行ってな、束になっている刀を持ってこいよ。』
「へ~い」 小僧が持ってきたのは縄にくるまれてひと束になってる。 “だぁ~ん”ってんで土間に放り出す。 こうなるってぇと刀だか鰊(にしん)だか分らない。
『え~、このうちでどれでもお気に召したもの、一貫3百でよろしゅうございます。』