Nicotto Town



古今亭志ん生『松山鏡』その2

・・・と、庄作の女房は、

『何だいあの人は、なんだって二階ばっかり上がってるんだろね?・・二階に何かあるんじゃねぇかな?』というんで、庄作が村へ仕事へ行った留守に、そおっと二階へ上がってきて、よ~っと、こう見たが『何にもねぇけんど?・・』 ひょいっと長持ちの中を見ると、・・この庄作の女房も初めて鏡見るんだ。

『庄作どんは・・、二けぇばかり上がってると思ったら、・・この女のとこへ来て逢ってるだな!・・これ!おり(おれ)にゃぁ庄作という者がある、おりのもんだぇ!・・どっから涌いできた?・・ん?われのつらぁ見ろい!男だますすつらか、われは!うすみっともねぇつらしやがって!』

自分の顔を一所懸命に悪く言う! さぁ下りてくるともう、悔しくってじりじりしてる。 来やがったら、帰ってきたら、・・こん畜生めっと思うとたまらない! 右の方から癇癪の虫が“つ~”っと上がってくるから、こいつを抑えておくってぇと、左の方から焼餅の虫が“す~”っと上がってきて、こいつを抑えるてぇと真ん中の方からへっぴり虫が!・・・いろんなものが上がってくる。

「飯にしてくれんか! 飯の支度してあるか?」

『飯の・・・支度なんか、おら知らね!』

「何だ知らねて、しょうがねんでねぇか!・・わりが知ってか知らねか、飯食わねかなんねぇだが!・・どうしただ?」

『どうしただって、おらぁ知らねぇよ! おらみてぇなもんが作ったって旨くなかんべがや!!!』

「われ、どっか心持が悪いか?」

『わりぃんだやい!!、悪いやい!!・・・庄作どん、おめさん何であんな水くせぇ事するんだ! こういう訳だって言ったらいいじゃねぇかね! 何だ二階のあれは?』

「二階の何だ??」

『何だもあるかい、ちきしょうめ!え?言えねぇもんだろ、てやんでぇ、こんちきしょう!!!』 悔しいからパーッと胸ぐら掴むと「何しやがんだ、こんちきしょう!」っとパーンとひっぱたく。 『何をぶちやがんがよ、畜生め!!』 「分からねぇからだよ、この野郎!・・・ん?・・何だぁうるさいやつだ、この狸あまめ!」 『狸あまだ?どうして狸あまだ?あ~?われ、おりと一緒になった時なんてった?おめみてぇないい女はねぇ!生きた弁天様見てぇだ、そう言ってただ。それが狸になるか!!』 「うるせぇ、このあま~!!」

ってなもんで、殴るてぇと片ぽうじゃあ 『ぶちゃぁがったな』ってんで『あ~!』っと喰らいつく!また庄作の女房の歯はねぇ、すっぽんの歯みたいにね一枚歯ときてる。・・え~、これが 『う~悔しい!!』ときて“ガリガリ”ときたからいてぇ~~~!のなんの、 「何しやがんだ!」ってんでひっぱたく 『何だこん畜生め』てぇとドタバタドタバタ、取っ組み合いが始まる、・・・この村に尼寺が有ります。

 このお比丘(びく、あまさんのこと)さんがこの前を通ると、中の庄作夫婦が喧嘩しているから「まあ、何だ!・・・まあま、待たねぇかよ! え~、何で喧嘩するだ? お咲さん、どうして喧嘩するだ?」

『どうしたもこうしたもねぇ!本当に悔しい!』 「どうしただ?」 『どうしただもねぇだ、庄作どんはね、・・どっかから女引っ張ってきて二けぇ上げといて内緒にしといて、逢いに行ってるだ!! 二けぇの長持ちの中にいやがんだそいつ! え~~悔しいじゃないか、わたい! こういう訳でもってと理由はなさねぇから分からねぇども、騙された・・・おりゃあもう悔しくて何ねぇ!!』

  「あぁ・・そう泣くでねぇ、泣いたってしょうがねえでねぇか。 そういう事良くねえな、うん! あぁ~庄作どん、こんな事すんじゃねぇ、弥蔵女(やぞうめ、奉公人の事)なんか長持ちん中へ何で入れとくだ、えぇ?」
 
「そんな??」

  「いや!・・お咲さんが見たってんでねえか、よく考えなきゃだめだぞ~、女房は亭主というものを頼りに生きるんだ。 それをそんな事して良いわけねえ!・・・え~~まあ、しょうがねえこうなったら、おり(おれ)が話しつけてやる。・・・二階の長持ちの中にいる女だってえのが気が気でねぇや! 俺に任しとけぇ!」ってなもんで、二人を止めておいて二階へとんと~んとこの尼さんが上がってきて

  「まあ、ちょいとあんた!そこに居たってだみ(だめ)だ、こっち出てこぉ、おりゃあんた(に)話あるだ!・・あぁ~~、ん~~いろいろ話しつけるだで、出なせーよ!」 って覗くてぇとね、このお比丘さんも初めて鏡見る人で 「ありま!まあ、喧嘩すんでねぇ! 感心だなぁ女は!・・きまりが悪いもんだから長持ちん中で坊主になっちゃった!」

お粗末さまでした。次回は三遊亭円生さんの『初音の鼓』を予定してます。ちょっと小ネタなので日曜日頃UP

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2009/02/18 23:36
今回も、楽しませていただきました。
次回楽しみにしていますね。
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2009/02/18 23:32
この田舎のなまりが すっごく良く書きあらわされているのが、秀作ですね。聞いたままを文字で表現されてるのが、すばらしいです。今夜も楽しませていただきました。次回も期待してますです~(^▽^)ニコニコ
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2009/02/18 21:21
こんばんは!

聞いた話によりますと”志ん生”さんは士族の出で遡ると"菅原道真"公にあたられるとか、
実は、ウチの家も家紋が"梅鉢"でその流れを汲むと教えられて折りまして
もしか、しましたら遠い親戚などと考えるとつい嬉しくなります。

さて、この『松山鏡』は鏡の無い村のお話という事で、
途中、親孝行の庄作どんが鏡の中で大好きなお父上に再会(実は瓜二つの本人)する処までは
まるで”日本昔話”に出てくる様な泣ける”人情噺”でありますが、
そこで終わらせないのが、落語の落語たる所以かと存知あげます。
そこから、それを怪しんだ女房とのドタバタまでは何となしに見当がつきますが・・・・・
落ちの尼さんの下りは、お見事としか言いようが御座いません (笑

然しながら、己本来の姿を知らない松山村の人々達は、恰も自分自身を見失いがちな
私達の姿を写す鏡の様な噺とも考えられる奥深い内容でございました。

今宵も、ありがとうございました!! 週末がまた楽しみで御座います。。。笑夢☆””



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